実銃について

G36
 ドイツの兵器は常に世界をリードしてきた。その中でもH&K社は未来志向のメーカーというイメージが定着している。しかし、同社の製品を客観的に評価してみると、必ずしも未来のさきがけとなったという評価はできないことに気づく。「未来のさきがけ」と言うには、まず真っ先に登場し、その他の多くのメーカーが追随して類似の製品を作り、それらが従来品に代わって主流にならなければならない。トイガンで言えばマグナブローバック…で説明すると分かりやすそうだがどう書いても怒る人が出そうなのでこの例は避ける(笑)。モデルガンのブローバックカートリッジは開放系と言われるデトネータ式が当初主流、というよりほぼそれだけだった。そんな中で閉鎖系と言われるマルシンのプラグファイアーカートリッジが登場し、他メーカーが続々と類似したシステムの閉鎖系カートリッジを採用し、今度はほとんど閉鎖系ばかりになった。こんなときマルシンは閉鎖系カートリッジによって未来のさきがけになったと言うことができる。
 H&Kはハンドガンでは第一号のオーソドックスな中型オートHK4が1980年代に絶版となっている。P7はそれなりの支持は受けたものの主流とはとうていなりえず、アメリカのハンドガン弾数制限などでコンパクトでパワーのある製品が人気を集める傾向の中もP7が再評価されているという話はまったく聞かれない。ローラーロッキングシステムのP9Sもすでに生産されておらず、VP70もグロックに一定の影響を与えたとは思えるが、それ自体が失敗作であることは否定しようのない事実だ。結局ハンドガンの分野で本当に一流の仲間入りを果たしたのはUSPが初めてだと言える。そのUSPは従来のH&K独特のガスロック、ローラーロック等を放棄し、オーソドックスなティルトバレル式ショートリコイルを採用したものだ。プラスチックフレームもVP70を発展させたというよりグロックのまねをしたという方が事実に近いと思われる。これではH&K製品がハンドガンの分野で未来のさきがけとなってきたとはとても言えない。
 ライフルのG3シリーズは文句なく一流製品のひとつと評価すべきだが、結局デッドコピーを除けばG3のローラーロッキングに類似したシステムを採用するメーカーはほとんどなく、主流とはならなかった。また小口径高速弾の時代に入るとローラーロッキングの問題点、すなわち薬莢切れ事故が起きやすい、それを防止するためチャンバーにフルートを切ると発射ガスが機関部に流入して汚れる、圧力等の異なる弾薬に対する適応性が低い、演習時にブランクで作動させることが難しいといった欠点がより顕在化してきた。そこでG36、PDWでは回転閉鎖式ボルト、ガスオペレーションというオーソドックスなシステムが採用された。また、未来型アサルトライフルとして注目を集めたケースレスのG11は結局ものにならなかった。筆者は以前はG11は現用のアサルトライフルより優れているが、冷戦終結後の軍事予算削減、必要性の低下によって採用されなかった、と考えていた。しかし、アームズマガジンの記事用にモデルアップしてみて、ダメな銃だから採用されなかった、と考えが変わった。ライフルの分野でもH&Kが未来のさきがけになったとはまったく言えない。
 こうしてみると、H&Kの独自システムは未来的なイメージだけで、そのほとんどは放棄されており、本当の意味で未来のさきがけにはなっていない。
 G36アサルトライフルはオーソドックスなシステムで信頼性が高く、プラスチックの多用は外装パーツほとんどという徹底ぶりで水や腐食に強く軽量、左利き射手への配慮もゆきとどいている。従来ボルトストップ、ボルトフォワードアシストがないことに不満が持たれていたが、G36ではボルトストップがトリガーガード内の邪魔にならない位置に装備され、コッキングハンドルとボルトが一体のためボルトフォワードアシストは不要となった。フィールドストリップも容易で、各部がユニット化されて分隊支援火器、ライフル、カービンと組換えも容易で、生産、管理、訓練などすべてに合理的だ。先にモデルガンのカートリッジの例をあげたが、開放系の本家としてそれにこだわり、閉鎖系の採用が遅かったMGCのCPが結局いちばん熟成されたものになり、最も高い支持を得た事実もある。独自システムにこだわって登場が遅れたH&Kの小口径アサルトライフルが結局最善の製品であるという可能性は充分ある。
 現在G36はドイツの国際派遣部隊、特殊部隊、機甲部隊など一部の採用に留まり、大部分はG3のままだ。スペイン軍などで採用されたとの情報もあるが、いまだメジャーにはなっていない。しかしその実力を考えれば、将来的にはG3程度のシェアは得られるのではないかと予想する。いちばんの問題はドイツ製品全般に共通した価格の高さだろうか。

MP5
 前項でサブマシンガンについて触れなかったが、H&KのMP5はまさに未来のさきがけとなった大成功作だ。基本的なシステムをアサルトライフルからとり、クローズドボルト、ローラーロッキング機構つきボルトの採用により命中精度とコントロール性を飛躍的に高め、従来の近距離で弾をばらまくだけの粗雑な火器、というイメージを一新した。100m程度での軽狙撃銃としても使用でき、しかも拳銃弾を使用するため貫通力、射程が大きすぎず市街地、人質がいる場合に二次被害を出す可能性が小さい。サブソニック(亜音速)弾を使えばサイレンサーの効果も高い。警察用、対テロ特殊部隊用としてMP5は最良のウェポンと評価された。MP5がサブマシンガンの王座につき、前チャンピオンのUZIなど従来品を一気に過去のものとしたのは1980年代の始めだ。それ以来MP5の王座を脅かす存在はまったく現れず、「一人勝ち」状態を約20年にわたって続けてきた。他社が続々とローラーロッキングを真似した製品を開発したわけではないが、それ自体が「一人勝ち」状態で主流になってきたのだから、この場合は「未来のさきがけとなった」といって間違いないはずだ。
 ところが、最近になってようやくMP5時代に終わりのきざしが見えてきた。冷戦終結によって世界大戦の危機は遠のいたが、冷戦構造のたががゆるんだために地域紛争、テロの危険性は逆に増大している。高度化、凶悪化するテロに対し、MP5の威力不足が問題化してきたのだ。高性能化し、入手も容易になったボディーアーマーを着用した犯人、車中にいる犯人に対し、拳銃弾を使用するMP5は効力が小さすぎる。またマンストッピングパワーも充分とはいえない。
 そうしたことから世界の対テロ特殊部隊は現在MP5からM4A1などのアサルトカービンに装備改変しつつある。従来ライフル弾を使用するこうした火器は貫通力、射程が大きすぎて第三者に被害を与える危険が大きく、また超音速弾にはサイレンサーの効果が低いという問題があった。しかし最近5.56mmx45の特殊弾薬、すなわち150グレインを超える超重量サブソニック弾が開発された。これは通常の約3倍、7.62mm弾クラスの重量を持つ弾頭を、通常の半分を大きく下回る低速で発射するという従来の常識をくつがえすものだ。おそらく鋭く尖った弾頭を丸くし、また後方に大きく伸ばしたものだろう。通常の弾薬に適合したライフリングでこうした極端な重量弾を発射すると、恐らく安定せず比較的近距離で横転弾になるだろう。しかし近距離での使用、しかも貫通力が高くなりすぎないことが目的なので問題ないと思われる。この弾薬は低速のため貫通力が高すぎず、7.62mm弾並みのマンストッピングパワーを持ち、サイレンサーの効果も高い。これを必要に応じて使うことにより、アサルトカービンの対テロ用としての欠点はほぼ克服されたと見られている。もちろん大きな貫通力、射程が要求されるときには通常の弾薬をそのまま使うこともできる。
 MP5がまったく過去のものになり、長い目で見ればサブマシンガンの落日を奇策で一時延長しただけと評価されるのか、それとも一部、または大部分がアサルトカービンにとってかわられるだけで依然として重要な対テロ兵器でありつづけるのかは現在予測困難だ。しかし、これまでのような「一人勝ち」状態が終わるのはまず間違いないだろう。

G36C
 こうした時代の要求に応え、H&KはG36シリーズ中最小のバージョン、G36Cミニチュアアサルトライフル(M.A.R.)をバリエーションに加えた。ちなみに「C」は英語のコンパクトの頭文字だ。H&Kでは「コマンド」の頭文字ということにしたかったが、それはコルト社がM16ショートバージョンの登録商標にしていたため断念したという。バレルは228mmと極端に短く、ハンドガードの放熱口はG36の片側6個、G36Kの4個に対し2個となっている。ストックも1インチほど短くなっている。G36およびKの2階建て光学サイトに代えてUMPサブマシンガンに似たオープンサイトが装備されている。このサイトはUMPの流用としている資料もあるが、全く同じ物ではないようだ。また、フロントサイトは上から差し込んで横からピンで止める形式のもの、スコープマウントリングのようにレールに固定するもの、リアサイトは調節不可能なものとできるものなど、乏しい写真資料の中でも形状が異なるものが見られる。キャリングハンドルから下方に突き出ている台形部分もあるものとないものがある。キャリングハンドル部分はまだ改良中で形が定まっていないのかもしれない。キャリングハンドル上はスコープマウントベースとなっており、ハンドガードの下、左右にも最近必須アイテムとなりつつあるアクセサリー装着用マウントレールが装備できる。ハンドガード左右にレーザーサイトとフラッシュライト、下にバーチカルフォアグリップ、キャリングハンドル上にダットサイトを載せるといったフル装備がそのまま可能なわけだ。これ以外の点はほとんどG36およびKと同一だ。
 サイズはMP5A5とほぼ同じであり、レシーバー後方にリコイルスプリングが伸びているM16シリーズではこれと同じバレル長、肩つけして狙えるという条件でここまで小型化するのは難しい。AKS74U(クリンコフ)ともほぼ同サイズだがプラスチックを多用しているため重量ははるかに軽い。
 MP5から装備変換するなら使用感の似たH&K製品が有利であり、G36CがMP5の後継として対テロ兵器の王座につくという見方もある。また、対テロ兵器としてだけではなく、ゲリラ戦、潜入作戦用の火器にも向いているはずで、より汎用性の高いG36Cがあれば、UMPは不要なのではないかとも思える。他の機種では代用できない性格を持っていたMP5と違い、G36Cが「1人勝ち」状態の再現を演じる可能性は低いと思うが、今後メジャーになっていくのは確実だろう。

実銃データ ●射撃モード:フル・2発バースト・セミ(グリップフレーム交換により変更可能) ●マガジン:10、30発ボックス、100発ドラム ●発射速度:750発/分 ●銃身長:228mm ●照準長:250mm ●全長:500〜718mm(G36は750〜998mm、G36Kは610〜855mm) ●重量:約3kg ●初速:722m/s

製作を終えて
 9mm機関けん銃のときはどこもかしこもおかしい、そもそもコンセプト自体が時代錯誤だとぼろくそに書いてしまったが、今回のG36Cに関しては悪口は書こうにも書けない。アサルトライフルとしては非常にコンパクトでとりまわしがよく、人間工学的にも非常によくできたデザインだと思える。極端に短いバレルとフラッシュハイダーの組み合わせでは発射炎や発射音が大きくなるはずだが、これはコンパクトさを最優先にした基本形であって、必要なら大きなサプレッサー等がつけられるのだから欠点とはいえない。左右どちらからでも直角に曲げてコックでき、手を離すと自動復帰するコッキングハンドルはやや凝り過ぎの印象があり、実際はM16のものの方が使いやすいのではないかという気がする。ただ、ボルトと一体のためボルトフォワードアシストなしで強制閉鎖できるという利点もあり、左右に一切張り出しがない、ボルトフォワードアシストがないということで、M16よりひっかかりにくいデザインであるのは評価しなければならないだろう。なお、特にハンドガードにアクセサリーを装着している状態ではハンドガードの後方を握ることになり、親指がコッキングハンドルの作動範囲に入りやすいのではないかという疑問を持った。キャリングハンドル状のスコープマウントレールは、基本的にはプラスチック製(金属の芯が入っているかどうか不明だが)のキャリングハンドル上にあり特に重いナイトビジョンなどを乗せた場合安定性がよくないだろう。ただこの銃は元々軽快さを重視した火器で精密な狙撃向きではないから大きな欠点とはならないはずだ。プラスチックの弾性を使ってしならせて折りたたみ時にオン、オフするシステムは合理的かもしれないがちょっと気色悪い印象があった。スムーズにオン、オフするためには比較的小さな力で3mmくらいしならなければならない。キャッチされる部分はストックの中ほどだから、ストック後端に力を加えれば、その半分くらいの力でその倍くらいしなることになるからだ。しかし、プラキャスト製でモデルアップしてみても使用に違和感はなく、精密な狙撃に使うのでもない限り問題ないようだ。

 

戻るボタン