HK4のスライドストップをめぐる謎

スライドストップ略図

 通常の銃のスライドストップは前に軸があり、後部が下降する、つまり解除する方向に弱いスプリングのテンションがかかっている。通常は後部が下降していてスライドストップは機能しない。マガジンの残弾がなくなったときのみ、マガジンスプリングの強いテンションで上昇してきたマガジンフォーロワによってスライドストップ後部は押し上げられ、スライドを後退状態で止める(ホールドオープン)。
 これに対しHK4のスライドストップは、ごく簡略化すると上のイラストのようになっている。中央に軸がありシーソー運動をする。通常とは逆に後部が上昇する、つまりスライドストップをかける方向にスプリングのテンションがかかっている。銃の機能としては、残弾がなくなるとスライドはホールドオープンし、マガジンを抜いてもスライドは前進しない。ここにマガジン(弾薬が入っていてもいなくてもよい)を入れると自動的にスライドは前進する。マガジンなしでスライドを引くと通常の銃とは異なりホールドオープンする。空マガジンが入ってホールドオープンしている状態からスライドを前進させるには、マガジンを1/2インチほど抜いてもう一度叩きこむ。
 HK4およびHScのスライドストップのメカを解説している資料を探したが、結局見つからず、パーツ展開図などを見ながらこの条件に合うシステムを必死で考えた。

誤った仮説1
 ホールドオープン状態からマガジンを挿入すると、前部がマガジンリップによって押し上げられ、スライドストップは解除される。しかしこのままの状態ではマガジンが入っている限り残弾がなくなってもスライドストップは作動できない。そこでマガジンリップはスライドストップ前部を押し上げるものの、完全にマガジンを挿入する少し手前で限界に達し、そこからさらに力を入れて叩きこむと両者のかみ合いは外れるようにする。この動きにはスライドストップの弾性を利用する。この状態ではマガジンに残弾があろうがなかろうがスライドが後退するたびにスライドストップがかかることになる。このため、マガジンに残弾があるうちは何らかの方法によってスライドストップの作動を制御しておく必要がある。これには他の銃にはない「カートリッジフィードカム」というパーツの動きを利用している。

 最初にこのような推測をしたが、いろいろ問題が多い。まず、写真で見るとスライドストップは肉厚が2mmくらいあるように見え、弾性を利用するには無理がある。スライドストップより明らかに肉の薄いマガジンの方がへたってしまいそうだ。また、銃の中央にある「カートリッジフィードカム」と左にオフセットされているスライドストップには距離があり、大きな横方向の突起部などもないため、力の伝達が行われそうにない。また、あまりにも複雑で無理がある方法だという気がする。

誤った仮説2
 スライドストップ前部は弾薬によって押し上げられている。弾薬がなくなった状態でスライドが後退するとスライドストップ後部はスプリングの力で上昇し、スライドをホールドオープンさせる。

 この方が明らかに自然で単純だが、これにも問題が多い。スライドストップは断面が円の弾薬によって押し上げられそうな形状をしていない。また、これでは空マガジンを挿入してもスライドは前進しない。

 どう考えてもわからなかったが、HK4の原型であるHSc、その前のモーゼル製中型オートであるM1910(M1934も同じ)とさかのぼって調べるうち、M1910もほぼ同じ機能を持つことが分かった。最初はパーツ形状等があまりにも違うため同じ機能でも別システムではないかと思っていたのだが、1989年4月号のGUN誌、「ガン・メカ追究」のコーナーに同じシステムである旨の記述があった。この記事は非常にわかりやすくシステムを解説したものなので可能な方はぜひ読んでみて欲しい。この記事を書かれたターク氏は言うまでもなくメカに非常に詳しい方だし、HK4も愛用されていたので間違いないはずだ。そこで、このシステムをHK4に適用した場合のメカを推測してみた。

現在有力な仮説
 いままでの仮説は、このパーツがスライドストップであるという考えから出発していたが、これは誤りであり、出発点から誤っていたために正解に到達できなかった。HK4は基本的にモーゼルミリタリー、十四年式などのように、マガジンフォーロワによってホールドオープンさせる銃である。普通こういう銃はマガジンを抜くとスライドは前進してしまうが、HK4ではマガジンフォーロワが下降してスライドが前進する寸前に「スライドストップのようなもの」後端がスプリングの力で上昇し、スライドを支える。ここにマガジンを挿入すると、「スライドストップのようなもの」前部がマガジンリップによって押し上げられ、スライドが前進する。

 極端に複雑、不自然なシステムではなく、銃の機能もこれで全て説明がつく。たぶんこれで間違いないと思う。ただ、まだ疑問点が残っている。

 それなら「カートリッジフィードカム」の役割は何なのか。「装填されるカートリッジを一定位置に保つ」と受け取れるような記述がある英文の資料がある。弾薬はマガジン内部で、基本的に左右には動けないが、前後には少し動ける。前後位置がばらついていると装弾不良の確率が高くなるので、よく映画でM16のマガジン後部をヘルメットにコンコンと叩きつけてきれいに揃えてから銃に挿入するシーンがあったりする。「カートリッジフィードカム」は最上部の弾薬の微妙な位置合わせをスプリングのテンションで自動的に行うものなのかも知れない。あるいはマガジンからチャンバーに向かう弾薬の角度を調節するものだろうか。他のほとんど全ての銃にはないのだからなくてもいいものだろうが、1983年1月号のGUN誌でターク氏は、氏のHK4は装弾不良知らずである旨書かれており、これは「カートリッジフィードカム」の効果もあってのことかもしれない。

 「スライドストップのようなもの」前下部はイラストのようにフック状になっている。マガジンを抜き、「スライドストップのようなもの」後部が上昇、前部が下降すると、このフックがトリガーバーをひっかけることによりトリガーが引けなくなる。これがマガジンセーフティの機能だ。HScはこれでいいとして、HK4にはトリガーを引くとスライドが前進するという機能がある。 「スライドストップのようなもの」前部が下降してホールドオープンしている状態ではマガジンセーフティがかかっているはずだが、どうしてこれでトリガーが引けるのか。マガジンが入ってホールドオープンした状態でしかトリガーを引くことによるスライド前進ができないのでは、とも考えたが、マニュアルには明らかにマガジンなしでこの操作ができるように書いてある。トリガーをほんのわずかに引くとスライドは前進し、ここでトリガーバーはブロックされる、これ以上引かないとハンマーはレットオフしないから安全、ということなのか。これはちょっと気持ち悪くないか。一方、空マガジンが入ってホールドオープンした状態では、スライドは 「スライドストップのようなもの」とは関係なくマガジンフォーロワに支えられてホールドオープンしているわけだからトリガーを引いてもスライドは前進しないということでいいのか。とすれば「トリガーを引くとスライドが前進する」機能はマガジンをすべて失った状態でスライドを前進させたいとき、くらいしか役立たないことになるが、これはわざわざ機能として追加する必要があるものなのか。

 新しいマガジンを挿入すると自動的にスライドが前進する機能は、わずかではあるが明らかにマガジン交換後の射撃続行を早くするものだろう。グリッピングを変えずに親指で操作できるスライドストップの場合、熟練した射手なら自動解除とまったく差が出ないこともあるだろうが、スライドストップに注意をまったく向けずにターゲットをポイントして撃つだけのほうがわずかでも有利ではあるまいか。また、錬度の低い射手は突然の緊急事態にあわて、普段は問題なくできるスライドストップの解除に手間取る可能性も考えられるが、自動なら心配はない。また、これをアサルトライフルに応用したらどうだろうか。M16はマガジンを叩きこんだ手でボルトストップを叩くことで一瞬のうちに解除できるが、これが自動化されればほんのわずかでも射撃続行が早くなるはずだ。このわずかな時間の差で生死が決まることだってないとは言えない。ハンドガンも長物も、あの手この手で他より有利な特長を盛り込もうと各設計者が四苦八苦しているが、このシステムを真似した機種がまったく見当たらないのは何故だろう。やはり通常のシステムに比べれば複雑、不自然で採用をためらわせるものなのだろうか。

 

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