1.4 ホイールロック(頑住吉注:「Radschloss」。「Rad」は「車輪」です)
 我々はニュールンベルグの人であるMartin Loffelholz(頑住吉注:前の「o」はウムラウト)の1505年における古文書とペン画の中にホイールロックに関する最初の情報を得ている。それは当時使われていた摩擦点火器を元に開発されたものと見られる。これは黄鉄鉱(FeS2)製のヤスリによって火の粉を発生させるものである。マッチロックの場合射手が彼の銃を射撃準備状態に維持するため常に燃える火縄を用意していたのに対し、ホイールロック(deutsches SchlossあるいはFeuerschlossとも言う 頑住吉注:英語に直訳すれば「ジャーマンロック」、「ファイアーロック」ですが聞いたことないです)の場合は射撃を行いたいときになって初めて点火のための火(火花)が生み出される。これにより発射準備性が決定的に高まり、このとき個人防御のためのより小さい火器の製造が可能になった。こうした銃は乗馬時でも簡単に携帯できた。多くのホイールロックピストル(図1-4を見よ)の場合、グリップは大きな突起部で終わっていた。中央ヨーロッパではたいてい球であり、フランスとイギリスではときとして魚の尾に似た拡張部だった。これは甲冑をつけた手で銃を抜き、保持するのを容易にすることを意図していた。

図1-4

 シングルバレルのホイールロックピストルとならんで、ダブルバレルのものも作られた。これには2つの発火機構が装備されていた。口径がたいてい12〜13mmだったにもかかわらず、こうした銃の弾道学的成績、そして命中精度も低かった。しかしこれはそのバレルがスムーズで、丸い鉛弾が(頑住吉注:銃口からの)装填を簡単にするため口径より小さかったことを考えれば理解できる。

 図1-5および1-6はホイールロックの原理を示している。ホイールは発火機構薄板(1)の外側に、1本の回転軸上にマウントされている。内部ではチェーン(3)が回転軸に固定されている。回転軸は外部において四角形の突起部(14)で終わっており、カバー薄板(13)から大きく突き出しているので、ホイールは四角形部分にセットしたキーで巻くことができる。ホイールをを巻くとき、チェーンは回転軸に巻きつき、これによりメインスプリング(4)が圧縮される。約0.5〜0.7回転の後、ホイールロック(頑住吉注:ここではホイール式発火機構)はコックされる。ホイールはレバー(歯 10)によってコック位置に保持される。レバーは発火機構薄板にある穴を通してホイールの穴をグリップする。図1-7はコックおよびリリース装置の構造を示している。


図1-5
 ホイールロックの内部。(1)発火機構薄板 (2)ホイール (3)チェーン (4)メインスプリング (5)カム (6)アーム (7)火皿カバー (8)カバースプリング (9)火皿 (10)レバー (11)ハンマー (12)ハンマースプリング


図1-6
 ホイールロックの外側。(9)火皿 (11)ハンマー (13)カバー薄板 (14)四角形の回転軸突起

 ホイールはその上側が火皿(9)内に突き出ている。火皿は発火機構がコックされているとき、火皿カバー(7)によって閉鎖できる。このカバーはスイング可能なアーム(6)に保持され、アームの位置は1本のスプリング(8)によって意図しないズレから守られている。発火機構がコックされているとき火皿カバーが閉鎖できるというのは、コックされた後でのみカム(5)がカバーアーム(6)の場所を作るからである。コックされたホイールが解放されると、その結果としてカムの動きが火薬皿をオープンさせる。
(頑住吉注:ちょっと補足します。明記されていませんけど、図1-5はコック前の状態であり、この後ホイールは反時計方向に0.5〜0.7回転します。すると軸に固定されているチェーンは軸に巻きつき、板バネのメインスプリングを曲げ、回転が終わるとレバーがパチンとはまってホイールを止めます。要するにホイールをハンマー、チェーンを多くのS&Wリボルバーにおいてハンマーと板バネのメインスプリングを結んでいる可動リンク、レバーをシアと考えれば、馴染みのあるハンマーシステムと意外に近いものだということが分かります。図では回転軸に付属している偏心したカムが火皿カバーのアームを左に押し、カバーを開けていますが、コック後はカムがぐるっと右に回ってどくためアーム、ひいては火皿カバーは右に移動してカバーを閉じることができるわけです。カバーを閉じれば一応点火薬は保持され、水に落としたりすれば当然ダメでしょうが、銃をいろいろな角度で携帯することは一応可能でした。この状態では8のスプリングがカバーが開かないように保持していたというんですが、形からしてどう機能していたのかよく分かりません。たぶんこれは左部分でネジによって固定されている板バネであり、先端、つまり右端に図で奥方向の突起があってアームをクリックストップさせていたんではないでしょうか。ホイールが解放されるとカムは左側に回り、アームを押して火皿カバーを開けます)

 この銃を射撃準備状態にするには、ホイールをコックし、点火薬を火皿内に流し込み(火皿は発射薬と結ばれた点火経路の上に位置している)、カバーを閉じる。次いでハンマー(11)を倒す。この結果ハンマーリップ内に挟まれている黄鉄鉱がカバー上に位置する。この状態でトリガーを引くことにより、ホイールは解放され、この結果火皿カバーは開き、そしてハンマースプリング(12)は黄鉄鉱を回転するホイールに押し付ける(図1-8)。ホイールの周囲には摩擦を減少させるためのミゾと横ミゾが備えられている。横ミゾは黄鉄鉱とぶつかって空中に火花を散らす。この火花が火薬を燃やす。この炎が点火口を通って発射薬に点火し、発射が起こる。

図1-8

図1-8 ホイールロックのホイール(頑住吉注:左は縦の断面図、右は側面図です。周囲には摩擦を軽減して黄鉄鉱と接しての回転スピードを高めるための縦ミゾがあり、そして4箇所に黄鉄鉱と激突して火花を散らす横ミゾがあります。円周近くにある小さい丸い穴はレバーがはまってコック状態で止めるためのものです。)

 ホイールロックの発明直後、フリントロックのいろいろな形が強力なライバルとして成長したにもかかわらず、ホイールロックピストルは17世紀末まで命脈を保った。

 ホイールロックの点火メカニズムは、ノーマルなライターと大幅に一致している。ただしライターの場合今日では黄鉄鉱ではなく火花を供給する物質としてセリウムを混入した金属が使われている。この点に関する限りホイールロックは驚くべきものではない。しかし注目に値するのはトリガーメカニズムである。図1-7を見よ。ホイール(4)には円周近くに(テーパーのついた)穴が設けられている。コッキング状態ではこの中にレバー(1)の突起(歯)が入ってホイールを止めている。この突起は発火装置薄板の穴を通して到達している。ホイールの穴、または歯には傾斜がつけられているので、ホイールスプリングからホイールを経てレバーに及んでいる圧力は結果的にF方向に力を生じさせている。



図1-7
 ホイールロックのトリガーメカニズム。上a)図は上から、下b)図はサイドからの外観(ホイールは断面)
(1)レバー (2)コックパーツ (3)スプリング (4)ホイール Fはコックレバーに作用する力の方向 Wはホイールに作用する力の方向 Tはトリガーを引いた際コックパーツに作用する力の方向

 図1-7a)はレバー(1)、コックパーツ(2)、スプリング(3)の配置を上から示している。Fは歯に作用し、この歯は図示されていない発火装置薄板を通してホイールの穴をグリップしている。図1-7b)ではホイールの一部(4)を断面図で表現している。メインスプリングはホイールをW方向に回転させようとしている。a)ではWは上から垂直にレバー(1)の歯(左端)に作用している。結果的に生じたFはレバーを押す。この方向は(3)のスプリング張力に逆らう方向である。(3)はコックパーツ(2)のレスト内にある。トリガーを引いた際(力T)、コックパーツは右に押され、レバーを解放する。そこでホイールも解放される。

 いくらか異なる形態で、我々は今日同じ機械的原理を最もモダンなオリンピック競技用ラピッドファイアピストルの中に再び見出す(ハンガリーのOP、ワルサーOP。両方とも1955年頃以後)。というのは、このシステムはダブル発射に対する最大の安全を持ちながら最小のトリガープルを可能にするのである。
(頑住吉注:このトリガーメカの解説は非常に分かりにくいので補足します。図1-7 a)は上から見た図です。力Wが「上から垂直に」1.の左端を押しているというのは、この図の上方向ではなく、銃を基準にした上方向、つまりこの図を地べたに置いて上から見下ろした場合の上方向のことです。一方b)はサイド(「Seite」)からとされていますが、図1-5における右方向、つまり銃の後ろ側から見て、90度ひねった図、別の言い方をすればa)図の左方向から見た図です。1.のレバーはシアの役目を果しており、図a)において左端が下降する、つまり全体が反時計方向に回転することでホイールの穴に左端が入って回転を止めています。通常のトリガーシステムならばたいてい、レバーに反時計方向に回転するテンションをかけ、トリガーを引くと右端が下に押され、シーソー運動で左端が上昇してレットオフしますが、このシステムはちょっと違います。レバーとホイールの穴は図b)のような形で接しているので、レバーは常にこの図で上、レットオフ方向に滑ろうとしており、レバーにテンションをかけただけでは勝手に発射してしまうおそれがあります。そこでレバーが動かないように、赤い線で表現したコックパーツの段差が「つっかえ棒」としてレバーを止めています。トリガーを引くとコックパーツは時計方向に回転し、「つっかえ棒」が外れることでレバーは時計方向に回転、ホイールを解放するわけです。3.のスプリングはホイールをコックしたときレバーを押して穴にはめるためのもののようです。この、「トリガーを引くことでシアを動かし、レットオフする」のではなく「トリガーを引くことでシアを支えているつっかえ棒を外し、レットオフする」システムは確かに競技用銃によく使われる方法です。ただ、これはここでサンプルとして取り上げたホイールロックピストルがたまたまこうだっただけで、ホイールロックピストル一般がこうだったのではないんではないかと思うんですがどうなんでしょう)


 話が脱線しますが、先日「新必殺仕置人」DVD-BOX「子之巻」を買いまして、必殺シリーズ中最高傑作と言われることも多い(ちなみに私はそうは思いませんが)この作品を20年近くぶりに見直すことができました。中村主水、念仏の鉄という必殺シリーズ中最も有名な部類に入る2人と組む、巳代松という中村嘉葎雄演じるやや知名度の低い殺し屋は鉄砲を道具に使います。

 鉄砲といっても、もしコルト製パーカッションリボルバーなどを使ったら圧倒的に有利すぎて緊迫感がなくなってしまいますから(前作の「必殺からくり人・血風編」の土左衛門は当時の最新式銃器を使う殺し屋でしたが、このシリーズはかなり異色で困難な殺しに挑む緊迫感といったものは重視されていませんでした)、手作りの竹製で1発しか弾が出ないばかりか二間(3.6m強)しか弾が飛ばず、しばしば危機に陥るという設定になっています。内部構造までは示されませんが、おおよそこういうものであろうと想像されます。



 弾丸は直径8〜10mmの球状鉛弾と見られ、銃口は20mm以上あるように見えますが、たぶん奥にはより細い竹が挿入してあって強度を増すとともに内径を弾丸よりやや大きい程度にしているんでしょう。さらに強度を増す意図で竹の銃身に糊を塗って紙を巻いたり紐で縛ったりしています。グリップはかまぼこ板のような木製と見られ、単に竹の銃身に縛り付けてあります。グリップのやや前には点火口があります。グリップは右手で持ち、左手の親指に縛り付けた火縄で点火口に点火すると発射しますが、その瞬間に竹製の銃身は爆発して吹き飛んでしまいます。表の職業が鋳掛け屋なのに何故弾丸以外に金属を使おうとしないのかは謎です。二間しか弾が飛ばない銃で確実に人が殺せるはずがなく、有効射程二間と解釈しても距離二間で確実な弾丸の効力が三間で大きく減殺されているはずはありません。命中精度が低いため二間までしか急所への確実な命中が得られないというのなら分かりますが、そうではなく「それ以上火薬を増やすと自分が吹っ飛んでしまう」ためであると説明されています。まあ必殺シリーズのことですからそのあたりはつっこんじゃいけないんでしょう。
 この銃はおおざっぱな形は後世のハンドガンに近く、火縄を使うものの機械的発火機構を持つマッチロックではなく、それ以前のタッチホール式、すなわち前回登場した「タンネンベルグの銃」に近い最も原始的な火器に分類されます。ヨーロッパではマッチロックピストルすら携帯用火器として使われなかったとされています。それはこうした形式は常に燃える火縄を用意しておかなければならず、緊急の護身用には役立ち難かったからであると思われます。巳代松の場合は自分から場所と時間を決めて敵を待ち伏せ、暗殺するという使い方だったからこれでも役立ったわけですが、例えば12話において急に危険にさらされたとき、主水の脇差を借りたりしていました。

 てなわけで、火縄を使うハンドガンは携帯用火器としての実用性がきわめて限られ、少なくともヨーロッパではまったく普及していなかったわけですが、今回紹介されたホイールロックが登場して初めて常時携帯し、緊急の必要に応じて発射できる本格的な携帯火器としてのハンドガンが作れるようになったわけです。

 ホイールロックの原理はライターに似ており、ホイールには回転するようスプリングのテンションがかけられ、シアで止められています。トリガーを引くとシアが外れてホイールは急速に回転し、火花を散らして点火薬に点火、この火がチャンバー内の火薬に引火して発射となるわけです。ペッパーボックスについて調べるまで、私はホイールがクルクルと2、3回転するのかと思っていましたが、実際には0.5〜0.7回転するだけでした。

 今日の目で見れば非常に単純なシステムですが、当時の工業レベルでは製造困難であり、王侯貴族のステータスシンボルといったものに留まり、広範に普及することはありませんでした。グリップ底部に球状の張り出し部があるのは、発射後に鈍器として使うためかと思いましたが、実はアーマーをつけた手で取り出し、保持しやすいようにだったわけで、こんなところからも庶民や下級兵卒のものではなかったことが分かりますね。

http://www.a2armory.com/german-wheel.html 

 これはドイツ製ホイールロックピストルのレプリカです。本で紹介されている銃はホイールの軸が四角形になって外側に突出し、そこに器具(キー)を取りつけてコックするものでしたが、この銃には蝶ネジ状のつまみが付属しています。

http://blindkat.hegewisch.net/pirates/wheellock.html

 こちらはイギリス製で、詳細までは分かりませんが構造図もあります。この銃は本で紹介されたものと同様に器具を使ってコックするものです。ホイールロックでは通常のハンマーとは逆に後方に倒れこむような形が一般的だったようですね。









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