アイバージョンソン.32オートマチックセーフティ製作記

※これは製作の様子を紹介したものです。他ページと重複する画像は削除しました。

5月11日 アイバージョンソン.32オートマチックセーフティの製作を開始して約1週間経ちました。

製作途中1

製作途中2

 今こういう状態です。ほぼ機能がそろい、どの部分が可能か、不可能かほぼ見とおしが立ちました。
 それにしても小さいです。.32口径はなんとなく.38口径よりやや小さいくらいかとイメージしていました(オートなら7.62mmも9mmもほぼ同じ大きさであることが多いですよね)が、特にシリンダーの小ささは異様な印象を受けるほどです。
 私が作っているのは、使用弾薬が.32S&W、スモールフレーム、トップブレイク、ハンマー露出、ファーストモデルと呼ばれる最初期のタイプです。セカンド、サードモデルとの大きな差は、バレルラッチ(ファーストはレバー、セカンド以降はT字型)、シリンダーストップ(ファーストはトリガーの一部で兼用、セカンド途中から独立)、ハンマースプリング(ファーストは板バネ、セカンド以降はコイル)といったところです。
 ギミックとしては、DA、SAで作動し、シリンダーが回転、レバー操作でブレイクオープン、ほぼ実物大(やや小さくならざるを得ない感じですが)のカートが装填できる、といったところになりそうです。少なくともいまのところ実に快調に作動しています。内部メカは大筋実銃通りで、メカの理解に役立つものにできそうです。
 逆に不可能な部分です。まず、エジェクターはダミーになります。これはもう今後二十六年式、ウェブリー・フォースベリーを作る場合でも現在の素材、製法による精度、剛性では再現は不可能です。シリンダーを連動させることをあきらめれば可能でしょうが、私はシリンダーの回らないリボルバーを作るつもりはありませんので。SAは可能なものの、ハンマーを起こしたときシリンダーを回りきらせるのは無理のようです。シリンダーストップは簡単なようで難しいです。トリガーの軸にきわめて近い位置にならざるを得ないため、大きく上下させられず、大きな回転運動が加味されてしまうので、かなりの精度が要求されます。二十六年式は全体にずっと大きいので可能かもしれませんが、今回はここは大胆にアレンジすることにしました。
 実銃は徹底的に省力化されており、トリガースプリングが単なる板バネになっています。作動角度が大きいダブルアクショントリガーのスプリングが板バネになっているという例を私は他に知りません。スプリングをあまり強くできないという制約もあり、これはキックバネにアレンジせざるを得ません。この他、シリンダーハンドを前に押し、トランスファーバー(アイバージョンソンの場合こういう名称ではないのですが)を後ろに押すスプリングもキックバネ、シアのリターンスプリングはコイルにします。ただ、メインスプリングはプラキャストにピアノ線を鋳込んだ板バネもどきにするつもりです。
 グリップですが、今回もスムースの木製風になります。いつもいつも手を抜いているようで気が引けるのですが、実銃で標準となっているハードラバーのグリップは安物のくせに(笑)、単純な凹凸ではなく立体的なフクロウの顔、花、ツタ、葉といったレリーフがあってとても手作業で作れるようなものではありません。ちなみにオプションで木、アイボリー、パールがあったそうで木製風でも間違いではありません。パールは作れませんし、アイボリーはいちばん簡単なものの汚れやすく汚れが目立ちやすい、安物イメージに合わないという問題もあり、やはり木製風がベターではないかと思います。
 ひょっとしたら今月中に原型完成、来月中旬ごろには発売できるかも知れません。ただ、いちばん苦労しそうなのは量産品の作動の調整ですね。

5月19日

 ほぼ造形が終了した状態です。現在はサーフェイサーを吹いて仕上げ段階に移っています。.32S&Wショート(センターファイアでこの銃が作られた頃はブラックパウダー)はダミーカートも見たことがありませんし、流用できるモデルガン用もないので作ることになりました。資料によればケースの直径が約8.5mmということですが、都合上8mmになっています。
 ダブルアクショントリガーのスプリングが板バネであるケースは珍しいようなことを書いてしまいましたが、調べてみるとコルト、S&Wも初期は板バネだったことがわかりました。また、あまり関係ないですがマカロフはトリガー、ハンマー、マガジンキャッチのスプリングを1本の板バネですますという大胆な設計をとっています。
 この銃の実銃には「シリンダーフリクションスプリング」というパーツがあります。これは弱い板バネでシリンダーを押さえ、いくらかの力を加えないとシリンダーが回らないようにするものです。なぜこんなものが必要なのかというと、トリガーの一部でシリンダーストップを兼ねているからです。この方式だとトリガーを引ききった一瞬しかシリンダーは固定されません。トリガーを少しでも戻すとシリンダーはフリーになってしまいます。この状態でハンドが下に戻る時、ハンドはラチェットにわずかですがシリンダーを逆回転させようとする力を加えます。シリンダーがあまり軽く動くとこのときシリンダーが戻ってしまうんです。
 現在のほとんどのリボルバーはハンマーがコックされる時はシリンダーをフリーにし、戻るときは固定したままという機能を持つ独立したシリンダーストップを持っています。二十六年式はシリンダーストップをトリガーが兼ねていて、これを非常に珍しい大きな欠点であるかのように書いている資料がありますが、当時は決して珍しいものではなかったんですね。ナガンもそうですし、ウェブリーのリボルバーもかなり遅くまでこういうシステムでした。ただ、このアイバージョンソン以外にシリンダーフリクションスプリングのようなパーツを持つものは見当たりません。これらの銃はどうやってシリンダーの逆回転を防いでいたのか謎になっています。ちなみに製品では独自のシリンダー固定方法をとるためシリンダーフリクションスプリングは再現しません。
 もしアイバージョンソンが成功すれば、コルトライトニング(ビリー・ザ・キッドの銃)も作れるかもしれず、モデルアップできる範囲が広がります。ただ、現在の素材、製法によるかぎりスイングアウト式のリボルバーのシリンダーを動かすことはまったく不可能です。

5月25日
 原型作りが終わり、現在型作りに入っています。今回は妙に早いですね。ただまあ、フルートの端の仕上げ等は難しく、まだまだ未熟だと実感させられる部分です。製作期間が短ければその分価格も安く設定できるはずです。最近あまり使わなかった高価な歯科用レジンを大量に使うことになりそうですが、キットは九四式より安くしようと思います。もちろんキットは上級者専用になるはずですが。完成品は組み立て、調整の難易度によりますが、機種の人気の問題もあるのでやはり九四式より高くはしないつもりです。
 先日吉祥寺のビージェイにいつも使っているプラキャストとシリコンゴムを買いに行きました。すると独自ブランドのシリコンゴムはあるのですが、いつも私が使っているシロプレン1406がありません。内心「自社ブランドのを買わせようというつもりか、せこいな。」(ごめんなさい)と思いました。見るとビージェイのシリコンゴムにはノーマル、高流動性、高引き裂き強度、の3種類があります。不可解ですがノーマルが高く2,500円、他は2,300円です。シロプレン1406は東急ハンズ等で2,980円で売っていますからかなり安いです。ためしに高引き裂き強度というタイプを買ってみました。するとこのタイプでも流動性が非常に高く、したがって攪拌しやすく、細部までゆきわたりやすく、気泡が残りにくいんです。しかも硬化時間は短く、強度もシロプレン1406よりはるかに高いことがわかりました。彫刻刀で注入ルート等を掘るのに困難を感じるほどです。それでいて弾力は大差ないようです。私が手抜きに使っている粘土埋め代用のコピックとの相性もいい(接する面がきれいに仕上がり、はがしやすい)です。あと問題は実際に注型した結果と多数複製した場合の劣化の早さ、型の持ちです。これが問題なしなら使うシリコンゴムを今後これに代えるかもしれません。そのときはもうすこし詳しく紹介しようと思います。
 使用するシリコンゴムの量は2.5缶くらいですみましたし、たぶんプラキャストも少量ですみそうです。これらの使用量では九四式よりむしろジェットファイアに近いくらいのようです。ただ小さいだけにウェイトを入れられる部分が小さく、バレル内、グリップ内の小さなスペースのみになってしまいました。ハンマースプリングをキックバネにしたりすればグリップフレーム内にもウェイトが入れられるのですが、ここは特徴的な板バネ(へえ、こんな使い方もありなのか、という感じです)の再現を優先しました。フレームはサイドプレートがないので一体で抜くのがやや難しいですが九四式の困難さを考えれば問題になりません。また、サイドプレートがないと剛性を確保しやすい、ハンマー軸などの誤差が生じにくいというメリットもあります。
 たぶん1週間以内に試作第一号がお見せできるはずです。

5月28日
 おかげさまで試作第一号が完成しました。と、いうことで、

 型に無理があって一部作り直したりしましたが、ほぼ作業終了です。作動の調整に大変な苦労をするだろうと予想していたんですが、ほとんど問題なかったです。シリンダーが微妙に偏心しているのか特定の1チャンバーで動きが渋かったですが、簡単な修正で絶好調になりました。ダブルアクションは全く問題なし、シングルアクションではシリンダーが回りきったり回りきらなかったりしますが、その状態からトリガーを引けば回りきるのでとりあえず作動に問題はないです。まだ1挺組んだだけなので断言はできませんが、組み立て、調整はクローバーリーフピストルよりはるかに簡単になりそうな感じです。あれからいろいろ経験を積んでノウハウが身についたこともあるでしょうし、サイドプレートがない左右一体のフレームということも大きいと思います。
 ちょっと問題だったのはハンマースプリングである板バネです。肉厚を1mmとし、ここに0.4mmのピアノ線を鋳込んだんですが、あっけなく折れてしまいました。対策はいろいろ考えられますが、まあとりあえず応急処置ということで代わりに電動ガンの多弾数マガジンのゼンマイを切って入れてみました。するとこれがぴったりなのであるいはこれでいくかもしれません。

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