アイバージョンソン.32セーフティハンマー より詳しい説明
全体像。頑住吉がモデルアップする機種にしては割と普通っぽい外観だが、実際に見ると余りの小ささに驚くと思う。
マズルには5条のライフリングがあり、深さ10mm余りで完全に閉鎖されている。
頭に「A」のついたシリアルナンバーは1896年製(ファーストモデル)の.32、ハンマー、スモールフレームのもの。なお、これ以外の刻印はバレル上部の非常に幅の狭いリブに上下2段で打たれるなど余りに文字が微細なため表現できなかった。
リアサイトはバレルと一体のトップストラップを貫通して上に伸びたフレーム上端にVノッチが刻まれているだけ。ハンマーコックするとトランスファーバー、ファイアリングピンが見える。なお、シングルアクション時ハンマーを起こした時点でシリンダーは回りきらず、トリガーを引ききった時点で回りきる。
バレルラッチはシングルトップポストと呼ばれるレバー式。前を上に回すとアンロックとなる。丸い軸の一部が切りかかれていて回転によってロック、アンロックする当たり前な構造だが、アイバージョンソンは当時これでパテントを取得している。この方法はいろいろな銃の各所に使われているが、確かにリボルバーのブレイクオープンに使った例は他に思いつかない。パーツ数が少なくて済み、加工が簡単であるというメリットがあるが、強度的に弱く、無煙火薬の圧力に長期間耐えられなかったため、セカンドモデル以後ごく普通のT字型ラッチとなった。なお、説明のためラッチを停止しているが、実際はスプリングの力でリターンする。リターンスプリングは実銃では板バネだがコイルにアレンジしてある。
シリンダーには.32ACP程度の大きさの.32S&Wショート弾のダミーカートが5発入る。エジェクターはダミーで作動しない。
トリガーを引かずにハンマーダウンしている状態。ハンマーとファイアリングピンの間には空間があり、ハンマーが後方から押されてもファイアリングピンが前進してプライマーに触れることはない。
トリガーを引くとトランスファーバーがハンマーを押し上げていく。同時に上端はハンマーとファイアリングピンの間に介入する。
トリガーを引ききるとハンマーとトランスファーバーのかみ合いが外れてハンマーは倒れ、トランスファーバーを叩く。叩かれたトランスファーバーがファイアリングピンを叩き、(実銃の場合)発射となる。
シングルアクションでは逆に起こされたハンマーがトランスファーバーを引っ掛けて上昇させる。ここでシアがハンマーをホールドする。
トリガーを引くとトリガー後部が直接シアを押し、ハンマーを倒す。
現在のトランスファーバーは打撃の伝達のみ行うが、アイバージョンソンの「ハンマー ザ ハンマー」アクションではハンマーを動かす機能も持っている。当時取得したパテントは当然現在のトランスファーバーシステムもカバーするものだった。ここでは分かりやすいようにトランスファーバーと呼んでいるが、アイバージョンソンは「レイザー」「インターベニングレバー」などと呼んだ。
現在の大部分のダブルアクションリボルバーはトリガーがハンマーの付属パーツを押し上げる方法をとっている。しかし、S&W、コルトも当初はトリガーの付属パーツがハンマーを押し上げる方法をとっていた(コルトライトニング、S&Wセーフティハンマレスなど)。現在でもハーリントン&リチャードソンなど安物、二流品の一部にこの方法が残っており、現在では「リフター」という名称が一般的なようだ。アイバージョンソンはこのパーツを上方に伸ばすことで元祖トランスファーバーシステムを実現したわけだが、もし最初からトリガーがハンマーの付属パーツを押し上げるシステムばかりだったら(現在の状況から見てこの方が優れているのだろう)トランスファーバー誕生は大きく遅れたかもしれない。なお、独立したシングルアクションシアも初期には一般的で、現在H&Rなど一部に残存している。
トランスファーバーの軸の前にあるのはシリンダーハンドの軸だ。実銃ではトランスファーバーとシリンダーハンドの軸は共通だが、このデザインでは両者が薄くなって強度が確保しにくいのでこのようにアレンジした。シリンダーハンドを前、トランスファーバーを後ろに押すスプリング、トリガースプリングは実銃では板バネだが、キックバネにアレンジしてある。
ハンマースプリングに板バネを使用することはまったく珍しくないし、当時は原則全ての銃がそうだった。ただ、この銃の場合使用法がちょっと変わっている。
ハンマーと板バネだけでスムーズな作動を得ることは通常難しい。板バネは当然長く伸びた板バネの末端に垂直方向の力を加えることが原則だ。だがこの方法で両者を直接コンタクトさせるとハンマーと板バネに大きな摩擦が生じる。そこでコルトSAA等ではハンマーにローラーをとりつけ、現在のS&Wなど大部分の板バネを使用するリボルバーではハンマーに可動する付属パーツをとりつけている。これでスムーズな作動が得られるが、当然パーツ数は原則2点増加し、工程、コストが増加する。これに対しこの銃ではこんな方法をとっている。
常識に反し、板バネに平行の方向の力を加え、単に曲げるというよりたわませるという方法だ。これならハンマーと板バネの接点は移動せず、大きな摩擦が生じない。ハンマーと板バネ以外のパーツは不用だし、板バネ自体も湾曲した単なる板でよく、多くのリボルバーのように先端を二股にしてフック状に曲げるというような加工もいらない。非常に合理的な方法ではないか。
アイバージョンソンはパテントを取得するのに熱心だったが、この方法はパテントになっていない。ということは前例があるはずだ、と思って調べたら、意外なところに存在した。以前モデルアップしたコルトNo.3デリンジャーがこの方法をとっていたのだ。また初期のH&Rリボルバーも使用していた。S&Wなどが模倣しなかったところを見ると、スムーズさでは一歩及ばないのだろう。現在ではコストを下げたい場合はコイルを使うのが常識なので、この方法をとっている銃は少ない。ただ、マカロフのハンマースプリングは写真で見る限りこの方法に近いようだ。(さらに追加。コルトのクローバーリーフピストルもこの方法。かつて2機種もモデルアップしていながらユニークな特徴に気づかなかったのは不覚。)
この方法は単に曲げるだけより強い反発力を得ることができる。製品では電動ガンの多弾数マガジンの板バネを切って使っているが、通常の方法なら反発力が弱すぎるものになるはずだ。
この銃のファイアリングピンは前方から入れ、リターンスプリングをかぶせ、その上をパイプ状のナットで閉じている。まったくなんでもない方法だが、これも当時アイバージョンソンのパテントになっている。確かに当時の他の銃(多くはハンマーにファイアリングピンが付属している時代だが、例えばS&Wセーフティハンマレスなど)は前方からパイプを入れて横に貫通するピンで保持する(パーツ数は1点増える)方法などをとっている。製品ではこの形式も実銃通り再現している。ちなみに原型のネジには安物のボールペン(笑)の一部を切って使った。
この銃には独立したシリンダーストップがない。二十六年式、ナガンなどと同様にトリガーの一部がその役割を果たしている。パーカッション時代から独立したシリンダーストップを持つ銃もあれば、1930年代あたりでまだトリガーの一部で兼用している軍用リボルバーも珍しくなかった。ちなみにシリンダーストップが入るシリンダーのノッチの外観が二等辺三角形の頂点を丸めたような形をしているのは後者、現在の多くの機種のように2段階になっているのは前者と見てほぼ間違いないようだ。
この方法は単純ではあるがシリンダーストップの役割を果たす突起が軸にきわめて近いため大きく上下させられず、また大きな回転運動が加味されてしまうため調整が困難だ。製品では初期のガスリボルバーのようにバレル内のパーツがシリンダー前面にくいこむことで停止する方法をとっている。実銃通りの方法は試作段階で不可能ではないことを確認しているが、確実性、スムーズさで劣り、またシングルアクション時にシリンダーを固定することはきわめて難しい。