1.6 パーカッションロック(頑住吉注:「Perkussionschloss」)
 点火方法における決定的進歩は化学の発展によって可能になった。18世紀末期、フランスのC.L.BertholletおよびイギリスのE.Howeardは、打撃によって発火に導くことができる物質に取り組んだ。そして世紀が変わる前にすでにイギリスでは、雷汞をライフルの発射薬の点火に使う試みがなされていた。スコットランドの教区牧師Alexander Forsythは、おそらく最初にこの新しい可能性をシステマティックに活用した人であり、そして1807年にあるライフルの発火機構に関するパテントを手にした。この閉鎖機構では打撃によって点火する点火錠剤(頑住吉注:ピル)が使われた。この点火錠剤はカリウム塩素酸塩、硫黄、木炭の混合物を含んでいた。Forsythは銃器工場を設立したが、その発火機構と、多数のいわゆる「化学的発火機構」群は継続的な成功が収められなかった。パーカッションキャップによって初めて、打撃に敏感な物質の使用フォームが作られ、これが他の方法に対して大きなメリットを示した結果、パーカッションキャップは短時間のうちに他の全ての点火方法を抑えて普及できたのである。パーカッションキャップの著作権は多くの発明者が要求した。アメリカに移住したイギリス人Joshua Shawは、このプライマーをすでに1814年に発明していたと主張した。しかし彼の要求は、ロンドンのライフル工Joseph Eggのそれほど事後において良好に根拠付けることができなかった。

 この銅製のプライマーは、小さな帽子に似た鉢からなり、その底には打撃に敏感な点火薬があった。点火薬はラッカーまたは紙の小片によって保護されていた。図1-11を見よ。このプライマー(4)は、ピストン(3 点火円錐)の上にセットされている。ハンマーの打撃が点火薬に点火し、この点火のための火が「Schwanzschraube」(2 頑住吉注:辞書に載っていませんが「尾+ネジ」。ネジに尾状の部分が付属している部品を指すらしいです。以下「尾ネジ」とします)内の点火経路(5)を通って発射薬に達する。このプライマーによる点火は非常に信頼性が高く、そして天候状況に実際上左右されなかった。当初人々は内部構造上フリントロックと異ならない発火機構を使用した。


図1-11 パーカッション銃におけるバレル後端部。 (1)バレル (2)尾ネジ (3)ピストン(点火円錐) (4)プライマー (5)点火経路
(頑住吉注:発射薬と弾丸が図示されてませんけど分かりますよね。「内部構造上フリントロックと異ならない発火機構を使用した」というのは、火打石が勢いよく振り下ろされるシステムをそのままパーカッションの打撃に使用したような、ほとんど同一のメカが使われたということで、実際単純な加工でパーカッション式に改造されたフリントロック銃も多かったようです)

 図1-12は遅い時期のパーカッションロックを示している。ハンマー(2)は発火機構薄板(1)の外側にマウントされ、回転軸上でNuss(3頑住吉注:前回の内容参照)と結合されている。ハンマースプリング(5)は片方のブレードによってリンク(6)を介してNussをグリップしている。他のブレードはコックパーツ(バー 4)にテンションをかけている。ハンマーはプライマーにあたる部分に、くぼみを持っている。このくぼみはプライマーにかぶさり、火薬ガスの漏出に対抗するよう配慮されている。


図1-12 パーカッションロック(ハンマースプリングの側から見た発火機構のいわゆる裏側) (1)発火機構薄板 (2)ハンマー (3)Nuss (4)コックパーツ(バー) (5)スプリング (6)リンク (7)くぼみ
(頑住吉注:ここまで来ると現代の銃と大筋同じ部分が多く、理解しやすいですね。わざわざフリントロックとほとんど同じシステムと区別して遅い時期のものとしていますが、前回図示されたフリントロックのシステムとさして変わりません。違うのはハンマースプリングを二股にしてシアスプリングを兼用している点、ハンマースプリングがNussと直接コンタクトせず、リンクを介している点くらいでしょう。このリンクは見慣れたS&Wリボルバーのそれとほとんど同じものです。)

 このパーカッションの原理は、前装銃の発展の頂点である。ついに人は信頼性が高く、簡単で、丈夫な点火手段を手にしたのである。今日普通に使われている点火方法も本質的にこれと変わらない。さらなる発展の経過では、その上後装銃の必要条件、すなわちカートリッジ化された弾薬に適合させることだけが必要とされたのである。

 いかに目的にかなった、そして考え抜かれたパーカッションピストルの構造がしばしばあったか、例としてWestley Richardの銃を示そう。ここで論評されるディテールは実際上共有財産であり(頑住吉注:大筋の部分で多くのパーカッションピストルと共通している、というような意味でしょう)、そして多くのピストルのうち最高のクオリティが見られる。

 図1-13は口径23(14.9mm)の銃を示しており、これはおよそ1830年頃由来である(頑住吉注:この23というのは.23でも散弾銃の23番でもなく、どういう表示法か不明です)。ハンマーはセーフティコック位置にある。この位置でこの銃はハンマーの左に位置する「かんぬき」を右に圧することによってセーフティをかけることができる。点火経路はサイドに穴が開けられ、プラチナ製の「はじけ円盤」で密封されている。この「はじけ円盤」には中央に小さな穴がある。高圧時、この「はじけ円盤」は押し出され、火薬ガスのルートを開放し、バレルの破裂を防ぐよう意図されている。小さな装填棒が関節部によって銃に固定され、紛失が防がれている。


図1-13 Westley Richardのパーカッションピストル。1830年頃。
(頑住吉注:茶色が「関節部」で、青の装填棒を保持しています。黄色が「かんぬき」で、右にスライドさせるとハンマーの回転を阻止するわけです。黄緑が「はじけ円盤」です。バレル内部から真横に伸び、そこから90度曲がって斜め上後方のパーカッションキャップに達する点火経路はそのまま開けることができないので、いったん横からバレル内まで達する穴を開け、斜め上後方からも穴を開けて結合させた後、横への穴を栓でふさいだわけです。そして単なる栓ではなく、異常な高圧時には抜け出てガスを逃がす安全栓としたわけです。よく考えてある、と言いたいところですが、実際にこれが起きたらたぶん「はじけ円盤」は真横に弾丸のように飛び、隣の人を殺傷するおそれがあると思われます。プラチナ製なのが装飾のためか、何か実用的な理由があるのかについては説明がなく不明です。それにしても、1830年といえばコルトがこの銃の作られた英国でリボルバーのパテントを取得するたった5年前であり、改めてコルトリボルバーが時代のはるか先を行くものであったことが分かりますね)

 黒色火薬による射撃後は、バレルを常に熱い湯で洗浄すべきである。バレルを銃から取り外せばこれは最も簡単に行える。そこでWestley Richardピストルの場合、バレルの取り外しは簡単に、そして工具なしで行えた(図1-14を見よ)。そのためには、まず前部のバレルかんぬき(4)をサイドにいっぱいに押し動かす。バレルにあるリング金具から完全に抜け出るまでである。次にバレル下の穴から装填棒を抜き取る。この状態でハンマーがコックまたはセーフティコック状態にある場合、バレルは上に外せる。バレルは「尾ネジ」(2)のカーブした延長部によってリコイルプレート(3)に保持される。この延長部はリコイルプレートにある対応する切り欠きに正確にフィットする。図1-14bはフリーな旋回点(D)を持つこの保持方法の原理を示している。


図1-14 Westley Richardのパーカッションピストルの断面図。 (1)バレル (2)尾ネジ (3)リコイルプレート (4)バレルかんぬき
(5)バレルかんぬきの抜け止めピン b)はバレル保持の原理を示している。(r)および(R)は尾ネジのフック部の湾曲半径 (D)は取り去り時にバレルを方向転換するためのフリーな旋回点
(頑住吉注:まずc)を見てください。この部分に説明がなく推測をまじえてですが、赤で示された4のバレルかんぬきは、この図で手前になる部分が白で表現された範囲削られて、垂直に差し込まれたバネ性のあるピン5が抜け止めの抵抗をかけています。バレルかんぬきを引き抜くと、基本的にバレルは上に外れるわけですが、本体側のパーツである黄色のリコイルプレートの穴にバレル側のパーツである黄緑の尾ネジの延長部が差し込まれているので、当然真上には抜けません。別の制約上まっすぐ前にも抜けないので、Dを中心にしてバレル先端が弧を描くような形で抜くことになります。こうなると延長部がストレートだとまずいので延長部も弧を描く形にしたというわけです。これもうまく考えてあると言いたいところですが、うまく設計すれば前方にストレートに抜くことは可能で、その方が製造が楽だったと思われます。)

 図1-15を見よ。さらなる興味深い要素はNuss(2)に取り付けられたウィング(4)である。このウィングは、コックしたハンマーが倒れる際にバー(3)のくちばし部がセーフティコックノッチにとらえられることを妨げる。図1-15aではバーのくちばし部がNuss内のセーフティコックノッチ内にグリップされており、ウィングは上の位置にあってコッキングノッチを覆っている。ハンマー(図示されていないが、発火機構薄板の反対側にある)がコックされると、バーのくちばし部はウィングの先端上を滑り、下に押す。この結果バーのくちばし部はコッキングノッチ内に落ち込むことができる(図1-15b)。ウィングは今度はセーフティコックノッチを覆い、レットオフ後にバーのくちばし部がセーフティコックノッチを素通りするように導く。Nussおよびバー上の矢印は、ハンマーおよびバースプリングの力方向を示している。(描かれていない)Studel(頑住吉注:前回の内容参照)は、3本のネジによって発火機構薄板に結合されている。1本は同時にバーの回転軸として役立ち、他の2本はNussの上方に位置するネジ穴にねじ込まれている。図1-15cは、ウィングがどのようにNussの中に入っているかを示している。バー(3)は高さ(h)と等しい。Studelは全ての部品をカバーし、ウィングの脱落を防いでいる。


図1-15 Westley Richardのパーカッションピストルの発火機構を一部断面で図示。矢印は図示されていないスプリングの力の方向を示している。 (1)発火機構薄板 (2)Nuss (3)バー (4)ウィング (5)セーフティ a)はバーのくちばし部がセーフティコックノッチにあり、セーフティがかけられている。 b)は銃のコック状態 c)はウィングの付属したNussの一部断面図
(頑住吉注:ちょっと分かりにくいですが、私にもこれ以上分かりやすく説明できないです。確かにNussやハンマーにコック、セーフティコックの2つのノッチがある場合、コック状態からレットオフした瞬間に指の力をゆるめれば、セーフティコックノッチがシアやシアを兼ねるトリガーにひっかかることは理論上ありうることですが、実際には現在たぶん全ての銃がこんな仕組みなしで何の不都合もないわけで、取り越し苦労だったんでしょう。バレルの結合といい、この設計者は凝りすぎ、あるいは単純化に価値を見出さなかったのかも知れません。


 パーカッションキャップは我々が普通に使っているキャップ火薬に近く、ビニール部を金属に変えたようなものですから理解しやすいと思います。まあ最近のガンマニアの中にはキャップ火薬なんて使わないという人も増えていそうですけど。この形式より前に使われていた方法は、発射薬と性質の近い、燃焼速度の遅い火薬を点火薬として銃の外部に少量置き、これと発射薬を比較的長い点火経路で結んでいました。火縄、ライターに似たホイール式点火システム、火打石を使った点火システムと、工夫を凝らした方法で点火薬に点火していましたが、燃焼速度の遅い点火薬にまず火がつき、これが点火経路を燃え進んで発射薬に点火する、という方法ですからロックタイムが非常に長くなりました。また当然雨や風によって点火が失敗することもあったわけです。これに対しパーカッションキャップは燃焼速度の速い薬剤を使用し、この火が一気に発射薬に突入して点火するので、ロックタイムが実際上感じられないくらい短くなり、雨や風にもほとんど影響されなくなりました。文中にあったように、この方法自体は現在使われている方法と基本的に同じであり、後は弾丸、発射薬、パーカッションキャップをひとつにまとめてカートリッジ化することが求められたわけです。

 ちなみにこの著者は博識で、難しい内容を平易に説明してくれるのはいいんですが、ホイールロックのときもそうでしたけどたまたま例として取り上げた銃に興味深いディテールがあるとそれを詳しく説明せずにいられない癖があるようです。ここはあくまでパーカッションロックの説明であって、その説明をこの全体分量で行う場合、この銃の特殊なコックノッチのようなまず間違いなくごく少数のパーカッションピストルにしかなかったと思われる特徴は本来省くか別の場所でやるのが適当と思われます。








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