1.11 ペッパーボックス

 ペッパーボックスでは、複数のバレルが1本の中心軸のまわりを回転可能な束に結束されている。この構造は製造の際ノーマルリボルバーの高い精度(それには全てのシリンダー内チャンバーをバレルと正確に配列する完璧な作動が属する)を要求しない。こういう理由で広範囲に手作業によっていた当時の銃器製造は真のリボルバーの安価な製造ができなかったのである。ペッパーボックスはその当時連発銃の需要をカバーしていた。

 1780年頃、イギリスのNockによってあるフリントロックペッパーボックスが作られた。この銃ではバレル束を各射撃後に手で回転させねばならなかった。1本のスプリング制動器がバレルを発射ポジションに保持した(頑住吉注:要するに板バネが発射位置ごとにパチパチとクリックストップさせたということでしょう)。発射前には火薬の入った火皿のカバーを押し動かさなければならなかった。バレルはねじ込みバレルピストル(旅行ピストル 頑住吉注:覚えてますか? イギリスのプリンスが教会の風見鶏をぶち抜いたあれのことです)の場合のようにねじって外すことができた。1つのブロックに一体化されるバレル基部はそれぞれ1つの火皿を持っていた。この火皿はグリップ上に設けられた固定のManschetteによってverschliessenされた(頑住吉注:「Manschette」は辞書に載っておらず、「verschliessen」にはいろいろな意味があるのでこの部分は意味不明です)。

 フリントロック点火方式はペッパーボックスを複雑にしたので、それは普及することができなかった。パーカッションキャップによる簡単で信頼性の高い点火方式の登場によって初めて、ペッパーボックスは成功することができたのである。初めのうちこうした銃はまだバレル束を手で回転させなければならなかったが、1830年以降にはすぐシングルアクション、ダブルアクション両方の機械的「Umsetzer」を持つタイプが作られた(頑住吉注:「Umsetzer」は「移すもの」、「配置換えするもの」で、たいていはシリンダーハンドを指します。ペッパーボックスでシリンダーハンドというのはちょっと変ですが、ここでは分かりやすいようになるべくこの語を使います。ただ、本当はより広く「回転装置」というほうが近く、「シリンダーハンド」では不適切な場合も後で出てきてしまいます)。

 図1-22はコネチカット州NorwichのBacon Arms Co.のペッパーボックスを示している(頑住吉注:私の下手な絵よりこちらの画像の方がいいでしょう。 http://homepage.hispeed.ch/american-arms/american-firearms/company-B/Bacon%20Arms%20Co/pic/31cal-6shot-underhammer-px-3-12inch.jpg ちなみにこの本のイラストではパーカッションキャップを装着するニップルがむき出しになっていますが、ネット上の画像では周囲にシールドが設けられています。この改良はイーサン・アレンのペッパーボックスでも行われたものです)。点火円錐(頑住吉注:ニップル)はバレル軸線と垂直に立っている(頑住吉注:これもアレンのペッパーボックスと同じ特徴です)。ハンマーは最下部のバレルに点火する(頑住吉注:いわゆるアンダーハンマー)。図1-23は、全長20cm、重量665gのこの銃の簡略化した断面図を示している。バレル束(2)は中心軸によってフレーム(1)に結合されている。ハンマー(4)はトリガースプリング(5)によってコック位置に保持され、これによりトリガースプリングがコックパーツ(頑住吉注:シア)の機能を引き受けていることになる。シリンダーハンドは図示されていないが、後に記述するMarietteのシリンダーハンドと一致している。

図1-23 Bacon Arms Co.のペッパーボックスの部分断面図。(1)フレーム、(2)バレル束、(3)点火円錐、(4)ハンマー、(5)コックパーツとしての機能を果すトリガースプリング、(6)トリガー (頑住吉注:このイラストはハンマーコック状態です。板バネのハンマースプリングがハンマーを時計方向に回転させようとしている、つまり打撃面を上昇させようとしているのは上下逆のような配置ながらごく一般的な方法なので説明不要でしょう。問題はそれとほぼ平行に走っている板バネ、トリガースプリングです。板バネというものは、ハンマースプリングのように曲がっている板バネが一直線になろうとする方向にテンションがあるのが普通ですが、この場合は逆でさらに曲がろうとしています。トリガーを引くとトリガー上後部がカムの働きをしてトリガースプリングを押し上げ、この結果先端がハンマーのノッチから外れてレットオフするわけです。少なくとも私はトリガースプリングがシアを兼ねるというこんな方法を取っている銃を他に全く知りません)

 図1-24はダブルアクショントリガーを持つペッパーボックスを示している。この銃は1837年以後Allen&Thurber Gun Companyによって大量に作られた。構造はEthan Allen由来であり、彼は1834年にダブルアクショントリガーメカニズムに関するパテントを取得した。この銃は銃身長57〜140mm、口径7.1〜9.1mmで製造された。

 この銃のメカニズムは図1-25で表現されている。a)はダブルアクショントリガーを示している。ハンマー(2)とトリガー(3)はフレーム(1)に回転可能に収納されている。ハンマーにはハンマーバー(4)がヒンジ結合され、フックによってトリガー上部をグリップしている。トリガーを引くと、ハンマーはハンマーバーのフックがトリガーを解き放し、ハンマーが解放されるまでいっぱいにコックされる。(図示されていない)バレル束は回転軸(6)上に回転可能に取り付けられている。バレル束の位置は制動棒(5)によって規定される。b)はUmsetzerを示している(頑住吉注:例えばこの場合は「回転装置」あたりの方が適訳でしょう)。Umsetzerはレバー(7)からなり、ネジがスリットを通してフレームに結合し、スプリングが前方に押している。この結果レバーは前後に押し動かされ、そして上下にスイングすることができる。第2のスリットはトリガーに固定されたピンによってグリップされている。トリガーが操作されると、このピンがシリンダーハンドを持ち上げる。シリンダーハンドは前部においてノーズによりバレル束にある歯車の歯を掴んでおり、これを回転させる。この動きが制動棒によって制限されるまでである。制動棒の位置、バレル束の制動スリット、シリンダーハンドの行程は互いに同調している。ここで記述したシリンダーハンドメカニズムはベルギーのMariette、フランスのDevismeの両方に起源が求められ、Mariette−Umsetzerと呼ばれる(頑住吉注:アレンのペッパーボックスのメカニズムは過去の製品で板バネをコイルスプリングに変更する等のアレンジはあるものの、原理的には全くオリジナル通りに再現しているので図は省略します)。

 ヨーロッパでは、ベルギー人Marietteのペッパーボックスが特別に普及した。Marietteはすでに1835年に彼のペッパーボックスを世に出していた。この銃は特にチャンバー(バレル)軸と平行に位置した点火円錐によって際立っていた。この配置はシリンダーハンドの特別な型とならんで、後にS.コルトが権利保護されたものである(頑住吉注:要するに現在では当然に思えるパーカッションキャップが発射方向に火花を飛ばすような配置のことで、アレン等の垂直配置よりもこの方が不発が少なかったとされています。なお、 http://www.genitron.com/unique11.html  http://horstheld.com/0-Mariette.htm こんな銃です)。

 この銃は興味深いトリガーシステムを装備している(図1-26を見よ)。ハンマー(1)とトリガー(3)はフレーム内の共通の回転軸上に回転可能に取り付けられている。「角度レバー」(2)は1本の軸によってトリガーに固定され、前部はフックで終わっている。このフックはハンマーのノッチをグリップしている。トリガーを引いた際、トリガーとハンマーは一緒に後方へ動く。上方に向けられた「角度レバー」の脚がフレームに固定されたピン(4)に当たるまでである。トリガーはさらに動き、この結果フックはノッチから押し出され、ハンマーは解放される。

図1-26 Marietteペッパーボックスのダブルアクショントリガーメカニズム。(1)ハンマー、(2)「角度レバー」、(3)トリガー、(4)レットオフさせるピン (頑住吉注:これは非常にユニークに思えたBacon Armsのそれよりさらにずっとユニークなダブルアクションメカニズムです。ハンマーとトリガーの軸が共通という銃は他に全く知りません。アレンのペッパーボックスの「実銃について」でも書いたように、通常のダブルアクションメカニズムよりファニングを自動化したような感じです。単純なシステムなのでこれ以上の追加説明は不要でしょうが、面白いのは通常のダブルアクションシステムのように一定以上引いたらパーツ相互の形状や関係によって自然にレットオフするのではなく、ダブルアクションシアがピンに当たって強制的に一定の位置でレットオフするような仕組みになっている点です。こういうシステムの方が精度が低くても問題なく作動します)

 ペッパーボックスはその多数のバレルにより、似た口径のノーマルなリボルバーよりも決定的に大きく、そして重い。こうした銃をあまりにも大きくさせないために、一般にせいぜい約9mmまでの小さな口径に制限された。口径13.1mmで120mmの長さの6本バレルを持つJ.Langのペッパーボックスや、口径10.9mmで133mmの長さのバレルを持つRiviere(両者ともロンドンの人)のペッパーボックスは例外である。この場合充分な効果に大きな価値が置かれていたことが明らかである。他方では例えばMarietteによって小口径の24本バレルつきのペッパーボックスが作られた。これは少なくともLangの怪物と同じくらい扱いにくかった(頑住吉注:アレンのペッパーボックスの「実銃について」に関する記述にちょっと勘違いがありました。まず私は1つの円周上に24本のバレルを並べた銃を想像していましたが、上のサイトの画像にあるように、マリエッテのペッパーボックスは一定以上のバレル数ではバレルを同心円状に並べてコンパクト化していました。24連発というのはこんなのです。 http://123india.santabanta.com/rating.asp?catid=9014014&high=1 もちろんこれでも非常に携帯しにくく、扱いにくいことに変わりはありませんが。どういうシステムで複数の円周上に並んだバレルを点火させるのか不明ですが、たぶんパーカッションキャップは1つの円周上に並べ、点火経路が長く、曲がってバレル基部につながっているんでしょう。もうひとつ、「怪物」と称されているのはマリエッテのペッパーボックスではなくLangのそれでした。しかし個人的には口径13.1mmの6連発よりこっちの方がずっと怪物的だと思います)。

 ペッパーボックスはたいていダブルアクショントリガーを装備した明確な近距離戦闘銃器だった。その全盛期は1835〜1850年である。だがその後、改良された製造方法および一体弾薬の導入がペッパーボックスを急速に旧式化させた。それにもかかわらず、ピンファイア、またはリムファイア弾薬用に作られたペッパーボックスも存在する。例えばBacon Arms Co.の.22口径銃や(頑住吉注: http://www.securityarms.com/20010315/galleryfiles/1900/1957.htm これは明らかにノーマルリボルバーのシリンダーを長くしてバレルを省いたもので、過去の同社のペッパーボックスから進化したものではありません)、ニューヨーク州Catskill(頑住吉注:どうでもいいですけどやな地名ですね)のJames Reidによる「マイ フレンド」と名付けられた、.22、.32、.41口径リムファイア弾薬用に作られた銃である(頑住吉注: http://www.littlegun.be/curios%20et%20antiquites/a%20james%20reid%20fr.htm )。同様にレミントンは1861〜62年に.22ショート用の6連発のペッパーボックスを製造した。この「ジグザグデリンジャー」と呼ばれた銃の構造はElliot(1858年)に由来する。注目すべきなのはUmsetzerメカニズムである。この銃は後のモーゼル、そしてウェブリー・フォースベリーリボルバーに似た、シリンダー表面上を斜めに走るノッチを使っていたのである(頑住吉注: http://www.securityarms.com/20010315/galleryfiles/0900/900.htm )。

 固定バレルを持つペッパーボックスも同様に製造された。もっとも有名なのはおそらく小型のシャープスピストル(1959年にC.Sharpsがパテント取得 頑住吉注: http://www.littlegun.be/curios%20et%20antiquites/a%20sharps%204%20canons%20fr.htm この銃は「サバタ」シリーズ第3作、「西部決闘史」にも登場しました)と、ロンドンのCharles Lancasterのいろいろな大口径で作られたランカスターピストルだろう(1882年にパテント取得 頑住吉注: http://www.viennamob.com/ephrmgun.htm )。両銃器は固定された4本バレルと単独の発火機構を持つ。この発火機構はバレルを次々に発火させるためのUmsetzerを装備している。ランカスターピストル、ジグザグデリンジャー、モーゼルリボルバーのUmsetzerは同じ原理に従って作動する。

 ペッパーボックスにおいて具体化されたダブルアクション構造は、実際上全てのセミオートマチックダブルアクションピストルにおいて使用されている解決法を先取りしていた。例えば我々は図1-25aで示されたアレンのペッパーボックスの原理を、最初のダブルアクションポケットピストルであるモデルLittle Tomに見出す。

 ペッパーボックスのメーカーは、こうした銃の欠点を知っていた。そのため、ダイレクトにペッパーボックスから出たノーマルリボルバーを作る試みがないわけではなかった。最も簡単なのは、多数のバレルを省き、単一のバレルに取り替える方法である。このバレルはシリンダーの前に、点火準備のできたチャンバーと一致するように設置された。一部のバレルはシリンダー軸のみに固定された。他のモデルではシリンダーの下側にブリッジがあった。このブリッジはバレルの保持に貢献し、一部では弾丸セッター(頑住吉注:いわゆるラムロッド)が取り付けられていた。このいわゆる「Ubergangsrevolver」(頑住吉注:「U」はウムラウト。「過渡期リボルバー」)は非常に安定性が高くも扱いやすくもなかった。図1-27はそのような銃のスケッチを示している(頑住吉注:ネット上にはいい画像が見つかりませんでした。イラストはアレンのペッパーボックスの「実銃について」にあります)。グリップ、発火機構、バレルの相互の位置関係はまだパーカッション、フリントロック、ホイールロックピストルと等しく、発火機構とバレルの間にシリンダーを入れただけである。後のリボルバーになって初めて、バレルとシリンダーはより高く配置され、これにより発火機構は一部シリンダーの下に来、そして銃はより短く、扱いやすくなった。図1-28で示された銃もまだいくつかの「過渡期リボルバー」の特徴を持っている。これはバーミンガムのJames Webleyによるモデル1853(2.ホルスターモデル、口径11.7mm)である。特徴的なハンマー形状からロングスパーとも言う。このシングルアクション発火機構はまだ、図1-25a(頑住吉注:アレンのペッパーボックスのメカ)で示されたものと同じシリンダーストップを装備している。ハンマーにヒンジ結合された制動棒が点火円錐の間にフライス削り加工されたブリッジ内のスリットをグリップする(頑住吉注:アレンのものはトリガーと連動しているので同一ではないはずですが、要するに後方からほぼストレートに前進したシリンダーストップがシリンダー後面のノッチに入って止める形式だということでしょう)。トリガーはまだ明らかにシリンダーより後方にあり、これはペッパーボックスから由来した発火機構であることを示すきわめて大きな特徴である(頑住吉注: http://www.webley.co.uk/historicguns.php3 これは空気銃メーカーとして現存するウェブリー&スコット公式サイトの自社の歴史に関するページです。上から5番目の銃がこれです)。


 アレンのペッパーボックスの「実銃について」の内容とかなり重複していますが、困ったことにパテント取得や銃器発売などの年号は資料によってばらつきがあります。矛盾しているものはあの時点でかなり多数の資料を調べた結果あちらの方が数が多いということで採用したと思ってください。

 私はあのとき、「過渡期リボルバー」という名称は「ペッパーボックスがノーマルリボルバーに進化した」という誤解を助長するやや不適切な呼称であると書きました。実際こうした銃はコルトリボルバーの登場後にその影響を受けて出現したものであり、本場であるアメリカのリボルバー発達史を見た場合こうした銃がリボルバーに進化したのであるということは全く言えません。しかしこの筆者はウェブリーの初期リボルバーとこうした銃の類似性を指摘し、「メカが全て終わった先にシリンダーがある」ペッパーボックスの基本レイアウトを引きずった「過渡期リボルバー」から「ロングスパー」のような状態を経て我々がイメージするようなウェブリーリボルバーになったのだとしています。ウェブリーリボルバーに限って言えばこれが正しいのかも知れません。ただ、この筆者はコルトリボルバー以前に「過渡期リボルバー」が存在しなかったことに触れておらず、発達史として見ると誤解を与える記述であるような気がします。

 それにしてもマリエッテのペッパーボックスは非常に面白い銃で、まあ売れないでしょうがぜひ作ってみたいです。











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