実銃について

トカレフとマカロフ
トカレフTT−33とマカロフPM

マカロフPMの誕生
 旧ソ連は1933年にトカレフTT−33を採用し、第二次大戦をこれで戦いぬいた。トカレフに使用する7.62mmX25弾薬は、モーゼルミリタリーピストルに使用する.30モーゼルとほぼ等しいもので、ソ連はドラムマガジンに71発という多弾数を装填できるPPsh−41(バラライカ)サブマシンガン等にも使用した。この弾は拳銃弾としては高速で貫通力、射程に優れ、ソ連は現在のアサルトライフルに近い使用法をとった。T34戦車にPPsh−41を抱えた多数の歩兵が乗って進撃する様子は映画などでもお馴染みだ。トカレフTT−33はこの弾薬を使用するために射程や貫通力は優れていたが、リコイルが強すぎて1発撃った後2発目を正確に撃つのに時間がかかる欠点があった。また、小口径高速弾は至近距離でのマンストッピングパワーに問題があった。そして、銃自体の問題として、シングルアクションでセーフティがないため即応性に劣るという欠点があった。おそらく前線ではチャンバーに1発装填してセーフティコック状態で持ち歩くということが行われたのではないかと思うが、原則としてその方法は危険すぎる。チャンバーを空にしておくと、強いリコイルスプリングの力にさからってスライドを引いた後でしか射撃できず、とっさに撃つ必要に迫られた場合(ハンドガンの場合こういうケースは多い)非常に不利となる。また、パーツの精度等の関係だろうと思われるが、あまり高いレベルを要求されない軍用拳銃としても不満が出るほど命中精度が低かった。命中精度が低いのでは長射程もあまり意味がない。このようにトカレフは大きな欠点のあるハンドガンだった。
 ソ連は第二次大戦で最大の死者(公称約2000万人)を出した後に宿敵ナチ・ドイツに勝利したが、ナチの兵器の優れた点は率直に認め、戦後の兵器開発に取り入れた。MP44のコンセプトに強い影響を受けたAK47もそのひとつだし、細部設計中に終戦となったフォッケウルフTa183の資料を入手してこれに酷似したMig15を作り、朝鮮戦争でF86セイバー登場まで性能面で国連軍を圧倒したのもその例だ。ハンドガンでもナチのワルサーPPに強い影響を受けたマカロフPMを開発、採用した。ハンドガンは軍用の兵器としての優先順位は低い。アメリカはソ連同様当時最先端を行っていたドイツの拳銃に触れる機会があったのに第1次大戦時代のハンドガンを小改良のみで1980年代まで使用した。ソ連が戦後すぐ新型ハンドガン開発を行ったということは、トカレフに非常に大きな不満を持っていたことのあらわれだろう。
 マカロフはワルサーPPをやや拡大強化したようなハンドガンで、コピーとまでは言えないものの構造はほぼ似ている。弾薬をチャンバーに装填した状態で安全に持ち歩け、ダブルアクションで即座に射撃できる特徴もワルサーと同じだ。その一方ワルサーPPでは外部から操作できず、いったんスライドを引くしかなかったスライドストップを露出させて操作可能にしたほか、マガジンキャッチをグリップ後下部に移動、セーフティの操作方向を逆にするなどの改良、アレンジが行われ、ソ連らしい簡略化も行われた。セーフティの作動方向はスライド上にセーフティを持つハンドガンとしては珍しいが、要するにコルトガバメントと同じ作動方向であり、この方がすばやい操作が可能だと思われる。個人的にはマガジンチェンジして射撃を続行する際に長所となるスライドストップの露出と、マガジンチェンジが素早く行えなくなる(ただし脱落事故は少なくなる)マガジンキャッチのグリップ後下部への移動は一貫性を欠くような印象を受ける。使用する弾薬は9mmX18、9mmマカロフなどと呼ばれるもので、冷戦時代情報が少なかった頃は9mmX19(9mmパラベラム)と9mmX17(9mmショートまたは.380ACP)の中間性能と言われることが多かったが、ふたを開けてみると9mmX17よりやや強いが大差はないものだった。このため作動方式は軍用拳銃として一般的なショートリコイルを採用する必要はなく、単純なストレートブローバックになっている。総合的な威力は7.62mmX25に劣るが、口径が大きいことでストッピングパワーは比較的大きくなり、連射が容易なため至近距離では互角かそれ以上の効果が期待できた。

マカロフの配備
 ソ連は1949年に本格的量産が始まったとされるAK47を歩兵の主力兵器として装備し、さらにコンパクトな銃が必要な兵のためにナチ・ドイツのMP40のものをほとんどコピーした折りたたみストックつきAK47Sも開発した。当時のライフルとして全長は非常に短いものになったが、重量はかなり大きく、さらに小型軽量の銃も求められた。だが、7.62mmX39弾薬を使用する限り、これ以上小型軽量化すると反動が大きすぎて非常に使いにくいものになってしまう。一方1951年に制式化されたマカロフは将校の自衛用や一般警察官用としては非常に優れたものだったが、あくまでやや大きめの中型オートであり、本格的な戦闘に使用するにはあまりにも非力だ。そこで、ソ連はその中間の火器としてスチェッキンAPSを開発した(採用はマカロフと同時かやや早く、軍用拳銃を大小2本だてで同時開発したのだろう)。スチェッキンは大型ハンドガンであり、セレクターの操作によってフルオート射撃ができる。装弾数も20発と多く、ホルスター兼用ストックを装着すればサブマシンガンがわりに使える。この銃も構造はワルサーPP、コンセプトはモーゼルM712といったドイツ製ハンドガンの影響を受けている。ライフルは大きく重すぎて装備できないが、普通のハンドガンでは火力不足という兵が使用するためのもの、という意味で、スチェッキンはちょうど現在のPDWにあたるものといえる。
 現在のPDWはピストル弾薬より射程、貫通力のある特殊弾薬を使用するものが主流になりつつある。小型軽量という制約上ライフルと互角の能力を持たせるのは所詮無理なわけだが、少なくとも敵中に孤立した単独または少数の兵がこれをもって反撃しているかぎり敵がうかつに近づけず、救援が到着するまでの時間稼ぎができる可能性がある、というくらいの能力がなければそもそも装備する意味がない。ところがスチェッキンはマカロフと同じ9mmX18を使用するものだった。オーバーな調節機能つきリアサイトはついているが、実際の有効射程が100mを越えるとは考えにくい。これでは100m以上の距離からライフル(当時ソ連が戦う可能性があった国々はライフル用として現在より射程、貫通力の大きいフルサイズ弾薬を使用していた)で攻撃されたら手も足も出ない。ホルスター兼用ストックとスチェッキンの組み合わせはマカロフと革製ホルスターよりはるかに重く、かさばる。それでいてマカロフを持っていては助からないがスチェッキンを持っていれば助かるという場面は考えにくい。これでは重くかさばる銃をがまんして持つ意味がない。結局軍用としてはあまりに威力不足ということでスチェッキンは短時間で一部をのぞいて使用されなくなった。ソ連は小口径弾の採用によって可能となった小型のAKファミリーであるAKS74U(クリンコフ)が出現するまで、AK47S、AKMSが装備できない兵にはマカロフをあてがい、折りたたみストックのフルサイズアサルトライフルから中型オートまでの間にぽっかり開いたあまりにも大きな穴を長年放置してきたことになる。スチェッキンが期待外れだったためにマカロフは当初想定されたより広い範囲の兵に使用されることとなった。また東ドイツ、ブルガリア、中国など多数の国々でもコピー生産され、旧東側陣営を代表するハンドガンとなった。本来ならもっと強力な銃を持つはずの兵に支給された場合、マカロフは当然非力だったが、将校の自衛用としては第二次大戦まで、西ヨーロッパの警察用としては1970年代頃まで.32ACPが主流だったことを考えれば、本来の用途としてはマカロフは充分な威力を持つ、優秀なハンドガンだったといえる。
 結果的に戦後ソ連のハンドガン用弾薬選定は最善ではなかったことになるだろう。マカロフ、スチェッキン開発決定時点で、現実的に考えられる選択肢は3つだったと思う。

@中型オートに適した弾薬をサブマシンガン代用の大型ハンドガンにも使用する。
Aサブマシンガン代用の大型ハンドガンに適した強力な弾薬(9mmパラベラムに準ずるもの)を中型にも使用する。
B中型には9mmX18を使用し、サブマシンガン代用の大型ハンドガンには強力な弾薬(射程、貫通力の大きい7.62mmX25)を使用する。

@は現実に採用された案だが、サブマシンガン代用の大型ハンドガンの威力が低すぎて使い物にならないという結果を生んだ。これに似た例は旧日本軍だ。ハンドガンに使用する8mmナンブはマカロフの9mmX18とほぼ同程度の威力と考えられるが、これと共通の弾薬を使う百式機関短銃は威力が低すぎてあまり役に立たなかったようだ。
Aだと中型、大型ともストレートブローバックにはできず、ショートリコイルなど複雑な構造にしなければならないが、軍用として普通に採用されているものだから特別問題とは思えない。また、中型オートの反動が強くなって使いにくくなるという問題点もあるが、H&K P7のように中型に近いサイズで9mmパラベラムを使うハンドガンはあるし、最近ではSIG P239がこれに近いサイズでさらに強力な.357SIG弾まで使用している。また、将校の自衛用などに使われる中型オートの反動が強くて使いづらいのと、サブマシンガン代用の大型ハンドガンの威力が低すぎて敵に有効な反撃ができないのとどちらが深刻な問題かといえば明らかに後者だろう。結果論でこんなことを言うのも気が引けるが、これが最善の策ではなかったか。当時の共産党の幹部が、「トカレフは反動が強すぎて撃ちにくいから新ハンドガンはもっと撃ちやすいものにしろ。それと命中精度が低いのはバレルが動くからだろう。バレルは固定しなければダメだ。」と言ったら誰もそれに反論は許されない、といった状態だったのかもしれない。
@の方針のもとにマカロフ、スチェッキンが配備された後にAに転換するのは事実上不可能だが、Bは充分可能だったはずだ。これに似た例は旧イタリア軍だ。ハンドガン用としては威力の低い9mmX17を使い、サブマシンガン用としては威力の大きい9mmX19を使った。弾薬の供給が複雑化するのを嫌ったのだと思うが、ソ連はアメリカが.50重機関銃弾で統一している用途に、それより威力の低い12.7mm弾と、威力の大きい14.5mm弾の両方を使っており、弾薬の供給を単純化するのを一貫した方針にしているわけではない。PDW用として、7.62mmX25を使用するモーゼルM712をソ連流に単純化したようなもの、または中途半端なピストルカービンという形式自体を止めてミニUZIくらいのサイズのサブマシンガンを開発するという選択はありえたと思う。結局ソ連はこうした選択はとらず、マカロフはスチェッキンが抜けた巨大な穴を埋めざるを得ない立場に立たされたわけだが、これにはかなりの無理があったと思われる。

マカロフの改良
 1980年代の終わり頃、ソ連は各国の軍隊でボディーアーマーが一般化しつつあることにより、マカロフの威力不足が決定的になってきたことを悟った。
 話がずれるが、ややこれと関連があるので9mmX21ロシアンという弾薬を使用するギュルザというハンドガンについて触れる。この弾薬は.357マグナム級の威力があり、スチールコアの弾頭は50mの距離からレベルVAのボディーアーマーを貫通する能力がある。この銃が誕生した背景にはロシアンマフィアの存在があるという。ロシアンマフィアは潤沢な資金を持ち、9mmパラベラム弾を使用する強力なハンドガンなどで武装し、ソフトボディーアーマーを着用し、ベンツなど西ヨーロッパ製の頑丈で高性能の車に乗って凶悪犯罪を繰り返した。ロシアの治安当局はマカロフを主武装にしてロシアンマフィアとの対決を迫られたわけだが、9mmX18はいちばん低性能の部類のボディーアーマーに対してすら全く無効であり、車のボディーを貫通することもほとんどできなかったため、苦戦を強いられた。このため強力な貫通力があるギュルザが要求、開発されたのだ。
 マカロフの強化が着手されたのはソ連崩壊以前だが、開発、装備が急がれた背景にはこのような事情もあったものと見られる。威力、特に貫通力不足がより顕在化したマカロフをパワーアップするためのより強力な新弾薬、57-N-181Mが開発された。これに合わせて改良強化された新型マカロフがPMMだ。PMMはB.M.Pletsky、R.G.Shigapovという技術者たちによって開発され、1994年から生産が始まった。PMMの最後のMは近代化(英語のモダナイズ)を意味している。以後旧マカロフをPM、それに使う弾薬を旧PM弾薬、新マカロフをPMM、それに使う弾薬をPMM弾薬とする。
 旧PM弾薬とPMM弾薬の薬莢は共通だ。PMM弾薬は円錐形(先端は少しだけ平らになっている)の弾頭を持ち、より多量の火薬をチャージして高速化したものだ。旧PM弾薬の初速は315m/sであるのに対し、PMM弾薬は410m/sとなっている。ごくおおざっぱに言って現代の軍用拳銃弾として、200m/s代なら低速、300m/s代前半なら標準的、後半なら比較的高速、400m/s代なら高速といっていいだろう。マグナムリボルバー用などで400m/s代の拳銃弾はけっこうあるが、世界的に広く使われた軍用拳銃弾となれば7.62mmX25(約450m/s)くらいしかない。PMM弾薬はこれにつぐ高速弾ということになる。初速だけなら9mmパラベラム(約350m/s)よりかなり速い。弾頭は旧PM弾薬が約5.9g、PMM弾薬が約5.6gと少しだけ軽くなっているが(ちなみに9mmパラベラムは約8g)、これは高速化のため軽量化したというより丸い弾頭を尖らせたら体積が減って軽くなっただけだろう。
 PMM弾薬はエネルギー量で9mmパラベラムとほぼ同等であり、弾頭が軽いため遠距離射撃には向かないが、至近距離での貫通力は旧PM弾薬よりはるかに大きくなっている。スチール製で尖った弾頭とも合わせ、低性能のボディーアーマーなら貫通できる可能性がある。ただ、旧PM弾薬はストレートブローバックのハンドガンで安全に、実用的に使用できる限界の威力とされているわけだから、それよりはるかに強力なPMM弾薬はストレートブローバックでは使用できない。そこで特殊なディレードブローバックに改良された。
 拍子抜けするような感じだが、このシステムはチャンバー内部にらせん状のミゾを彫っただけ、という単純なものだ。火薬に点火して薬莢内の圧力が上昇すると、薬莢の溝に沿った部分がふくらんでチャンバーにくいつき、摩擦を増大することで後退を遅らせるのだ。ガス圧を利用して後退を遅らせる、という点ではH&KのP7などで採用されているガスロックにやや近い気がする。
 チャンバー内部にミゾを彫る、という点ではH&Kのローラーロッキング式ライフルなどに採用されているフルーテッドチャンバーに似ているように思える。ローラーロッキングはボルトが完全にロックされていない関係上ガス圧が高い状態のままボルトが後退を開始してしまうことがある。高い圧力で薬莢がチャンバー内部にはりついた状態でボルトが後退を始めると、薬莢が途中でちぎれる薬莢切れ事故が起こる可能性がある。これが起こると銃を分解して専用工具で薬莢の前半部を除去しないかぎり完全に使用不能となり、軍用銃としては致命的だ。このためチャンバーに縦のミゾを多数彫ってここに発射ガスを導入し、薬莢が内部からだけでなく外部からも圧力を受けることで強くはりつくことを防止している。つまり、チャンバー内部にミゾを彫る、という点は同じだが、フルーテッドチャンバーはミゾにガスを導入してはりつきを防止するもの、PMMのディレードブローバックはミゾにガスを導入せず意図的にはりつかせるもの、という正反対のものだ、ということが言える。
 さて、ここで疑問なのだが、薬莢切れ事故を防ぐための対策と正反対のことをしたら薬莢切れ事故が起こりやすくならないだろうか。PMM弾薬は拳銃弾薬としては高圧だが、ライフル弾薬よりはるかに低圧だから大丈夫ということなのか。また、ロシアは旧ソ連時代から鉄薬莢を使っているため薬莢切れは起こりにくいのかもしれない。ただ、最も有効に後退を阻止するのには、リングが連続したようなミゾが適しているはずなのに、らせん状のミゾになっているという点は気になる。この最も大きな理由はたぶんバレル素材と切削工具の刃の片方を固定し、片方を回転移動することで一気に加工できるということだろう。だが、ひょっとするとミゾをリング状にすると薬莢がそこからちぎれやすくなるから、という意味もあるのかも知れない。
 これもきわめて不思議なのだが、PMMには旧PM弾薬が問題なく使えるという。強力なPMM弾薬に合わせてセッティングしてあるPMMに弱い旧PM弾薬を使用すれば当然排莢不良が多発するはずだが、複数の資料で問題ないとされているのだ。これはたぶん高圧のPMM弾薬では薬莢が強くはりついてディレードブローバックの作用が強く働き、低圧の旧PM弾薬では弱く働く、ということだろう。大量にストックされているはずの旧PM弾薬が無駄にならず、また通常は強力なPMM弾薬を使用し、サイレンサー使用時は音速以下の旧PM弾薬を使う、ということもできるので、これは非常に都合がいい特性といえる。
 ただ、問題点もある。薬莢をミゾにそってふくらませてはりつかせ、これを無理やり引きずり出すわけだから薬莢は変形してしまい、リロードはできない。軍用ではリロードできないのは大した問題ではないが、ロシアはPMMを9mmパラベラムを使用する西側のオートと同等の威力を持ち、コンパクトで安価、スチールフレームでタフというメリットをうたって輸出しようとしており、民間用としてはこれが欠点と評価されるおそれがある。また、このシステムは薬莢の性質に依存しているシステムなので、国際的にはむしろ珍しい鉄薬莢に合わせてある銃が、通常の真鍮製、一部存在するアルミ製、訓練・対ハイジャッカー用の特殊なプラスチック製などの薬莢に対応できない可能性もあるだろう。
 また逆にPMでPMM弾薬を発射すると、これは当然大事故につながる。旧PM弾薬とPMM弾薬は弾頭の外観が異なるが、装填は可能なのでこれは過渡期には重大な問題となる。ただ、PMとPMMのシステム上の差はチャンバー内部のミゾだけでありPMMに旧PM弾薬が問題なく使用できるなら、できるだけ早急にPMを順次回収してバレルを交換すれば問題の解決は容易だろうとも思える(実際にはPMMはPMより全体のサイズがわずかに大きく、グリップなどのデザインも変更されている)。
 また、PMMにはPMM−12と呼ばれるダブルカアラムのモデルも加えられた。このモデルの装弾数は名称の通り12発だ。PMは8発であり、これをダブルカアラム化すれば普通15連発くらいになるはずで、12発しか入らないということは普通ではないということだ。このマガジンは上1/3くらいがシングルカアラム、下2/3くらいがダブルカアラムという妙なものだ。ダブルカアラムに合わせたフォーロワだと上まで動けないし、シングルカアラムに合わせたフォーロワだと下に行ったとき左右にぶれてしまうはずだ。どんな構造になっているのか不明だ。そして信じられないような話だが、PMM−12にはPMのマガジンが使えるという。在庫のマガジンを無駄にしないためだろうが、こんな特徴を持つ銃は他に知らない。マガジンの下部は当然左右にがたついてしまうが、作動に問題ないそうだ。むしろ開発を急ぎ、変わった構造になったダブルカアラムマガジンの信頼性が低いという評価もある。
 PMMには9mmパラベラムを使用する輸出バージョンもある。ただ、海外のサイトに試射した輸入業者がリコイルが強すぎるなど射撃の安全性に疑問を持ち、輸入を拒否したと言う情報もあった。
 PMMは本来発展可能性の乏しい中型オートであるPMを最小の変更によって強化した優れた銃といえるだろう。ただ、あくまで緊急の間に合わせであり、無理をしている、銃のあり方として不自然、不健康という感はぬぐえない(イメージとしては「零戦52型丙」という感じだ)。最近流行のレールシステムを盛りこむなどこれ以上の発展も難しい。そこでロシアは次期制式拳銃決定のトライアルを行ってMP443グラッチを採用したわけだが、この銃に関してはまたの機会にゆずる(ちなみにグラッチは登場時点でやや時代遅れ、必要以上にサイズが大きいといった特徴から「烈風」というイメージだ)。グラッチの採用によってマカロフはどうなるのだろう。大部分がグラッチに置きかえられることは確実と見られるが、マカロフが完全に使用されなくなることはないと思われる。何故ならグラッチは現在のトレンドであるプラスチック製フレームでもアルミ合金製フレームでもなく、かなり肉厚でごついスチールフレームを使用しているため約1kgと非常に重い。また、西側ではフルサイズよりややコンパクトなモデルがむしろ主流となっているが、グラッチはかなりサイズも大きい。これでは大きすぎ、重すぎという場合が出てくるのは間違いない。主役の座はあけわたすにしても、今後もマカロフ(PMM)はロシアなどで重要な公用ハンドガンでありつづけると思う。

全くの余談
 以前アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「レッドブル」という映画が公開された。崩壊以前のソ連の刑事がアメリカに渡ってアメリカの刑事とコンビを組み、カルチャーギャップから摩擦を起こしながら犯人を追う、というものだった。まあ映画自体はあまり面白くなかったが、シュワルツェネッガー演じるソ連の刑事が使用する「ポトヴィリン9.2mm」というデザートイーグルを改造した架空のプロップガンがガンマニアの話題になった。ガンスミス作品がアームズに掲載されていたのも覚えている。「世界一強力な銃はダーティーハリーの.44マグナムだ。」(ジム・ベルーシ演じるアメリカの刑事)、「いや、世界最強はポトヴィリン9.2mmだ。」(シュワルツェネッガー演じるソ連の刑事)、なんていうかけあいもあった。
 ところで9mmX18は普通「9mmマカロフ」と呼ばれているが、西側の9mm弾よりやや直径が大きく、9.2mm(資料によっては9.25mm)あるという。銃は架空にせよ、「ソ連の拳銃は9.2mm」というのは意図的なものだったのだろうか。


 


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