スライドの後退と前進に別のスプリングを使用するシステムについて

 PSSではスライドの前進と後退に別のスプリングを使用する変則システムを使用した。これは頑住吉が全く新しく思いついたアイデアというわけではなく、以前GUN誌で紹介されていたオリジナルビデオムービー「ミカドロイド」用のステージガン(ビッグショット製作・南部十四年式)が発想の元となっている。ちょっと考えると「スライドの後退と前進に別のスプリングを使う」というのは永久機関のように不可能なことのように思える。GUN誌には構造についての説明は一切なく、これをそのまま真似したというわけではないし、結果的に違うシステムだったようだが、「そういうことが可能である」という情報がなかったら、こういう発想自体浮かばなかったはずだ。

 数年前、映画「ホワイトアウト」用のAKのステージガンを作ったことがある。あの映画で主に使われていたフルオートのステージガンは電動で排莢するものだが、これはフルオートオンリーだった。セミオートで撃つ重要なシーンがあるということで筆者がセミオート専用のステージガンを製作することになった。劇中、佐藤浩一氏演じるテロリストの親玉が負傷した人質を射殺するシーンに使用されているのがそれだ。あのステージガンの構造は今回のPSSとは異なっている。

イラスト1

 ボルト(黄色部分)はごく弱いスプリング(赤で示した引きバネのうち左)で常に前(左)に引かれている。この点はPSSと同じだ。ちなみに最初引きバネではなく輪ゴムを使用していたのだが、酷寒の中でゴムが弾性を失う恐れがあるということで引きバネに変更した。あまりにチープな感じになるし、耐久性が低いのでPSSでも引きバネを使用したが、本当は機能のみからいえば輪ゴムの方が元々の長さの何倍にも引き伸ばせ、極端に伸ばしてもテンションが極端には高まらないので都合がいいのだ。一方後方からは強い引きバネがボルトにかかっている(図では右)。ボルトは前後から引きバネによって引っ張られているわけが、後方に引こうとするスプリングの方がはるかに強いので、作動前の閉鎖状態では後退しようとしている。そしてPSS同様ボルトは閉鎖状態でシア(ピンク)によって支えられている。トリガーを引くとシアが下降してボルトはフリーになり、強い引きバネの力で勢いよく後退する。後退しきるとボルトはL字型の部品(青)に当たってこれを図で反時計回りに回転させる。L字型の部品は強い引きバネの後端をはねあげてかみあいを外す。これにより強い引きバネのテンションはなくなり、ボルトは弱い引きバネの力で前進するというわけだ。もちろんPSS同様連発はできない。
 PSSのシステムでは後退のための有効ストロークはカートリッジの全長程度しか取れないが、AKのシステムならほとんど全てを有効ストロークにできる。また、あまりメリットにはならないがカートなしでも作動は可能だ。一方デメリットもある。ボルトが閉鎖してロックされたのち、いちいち強い引きバネを伸ばして後方の突起部(緑)にひっかけなくてはならない。AKの場合はレシーバーデッキをワンタッチで着脱でき、これによって簡単にできたが、多くの銃ではセッティングが面倒になってしまうだろう。

 PSSの方法はこうだ。

イラスト2

 PSSではスライドの前進に引きバネ、後退に押しバネという違うスプリングを使っており、位置も上下に離れていて、図としてややわかりにくくなってしまうので、ここではあえて実際とは異なる概念図にした。
 スライド(ここではブリーチ前面の板のみ緑部分として表現してある)は弱いスプリングで常に前方に押されている。一方バレル(青)内には強いスプリングが入っている。スライドを引き、カート(黄色)の先端をチャンバーに入れ、昔のプッシュコッキングエアガンのようにスライドを押して閉鎖する。このときバレル内の強いスプリングは圧縮されるが、スライドを直接押すのではなくカートを介して押しているのがポイントだ。閉鎖状態ではスライドは前後から押されているわけだが、バレル内のスプリングの方がはるかに強いので後退しようとしている。これをシア(ピンク)によって閉鎖状態で止めている。
 トリガーを引くとシアが下降してスライドはフリーになり、勢いよく後退する。カートが前からスプリングで強く押されたままエジェクター(黒)に当たっても排出はされない。バレル内のスプリングが伸びきり、カートが押され終わった後に慣性でさらに後退し、この時点でエジェクターに当たるからスムーズに排出される。なお、カートを直接押すピストン(赤)を定位置で確実に止める構造が当初必要かと思ったが、ごく単純にピストンをスプリングに接着し、スプリングが伸びきったら停止するという方法で全く問題なかった。スライドは後退しきったのち、弱いスプリングの力で復帰する。このときにはすでにカートはないので、バレル内のスプリングは圧縮されることはない。
 ここで「強いスプリング」と言っているのは説明の便宜上であり、プラキャスト製である以上それほど強いスプリングは使えない。一方弱い引きバネは常に作用し、スライドの後退を妨害する。それほど強くはないスプリングでスライドを確実に後退させ、押され終わった後も慣性で一定以上後退を続けさせなければならないのだから、弱い引きバネは極力弱いものでなくてはうまく作動しない。極力弱い引きバネでスライドを確実に、極端に低速で違和感が出ないように復帰させるには、スライドに余計フリクションを加えるわけにはいかない。そのため今回ハンマーはコック状態で固定となった。

PSS構造

 実際のパーツ構成はこうだ。スライドを後退させるスプリングはバレル内にあり、ピストンはスプリングに接着されている。スライドを前進させるスプリングは引きバネで、真上に位置している。AKではトリガーとシアが一体だったのに対し、PSSのシアが独立しているのは、PSSではスライドを支える部分がトリガーのほぼ真上に来たため一体化できなかったというだけのことで深い意味はない。

 AK、PSSに共通するのは「スライド(ボルト)には弱いスプリングの力で終始前進のテンションがかけられている」「トリガーはスライド(ボルト)を閉鎖位置で支える」「トリガーを引く前、強いスプリングがスライド(ボルト)を後退させようとしている。」「トリガーを引くとスライド(ボルト)はフリーになり、強いスプリングの力で後退する」「一定以上後退すると何らかの方法で強いスプリングの機能は解除され、弱いスプリングの力で復帰する」というプロセスだ。「最初弱い後退用スプリングのみが機能し、後退しきった瞬間にパーツの移動でスライド(ボルト)に強いスプリングがかかり、前進する」「最初後退用スプリングが機能し、後退しきった瞬間にパーツの移動で後退用スプリングは機能解除され、同時に前進用スプリングがかかって前進する」といった方法も理論的にはありうるだろうが、現実的にはここ太字の方法が最善なのではないかと思う。
 



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