PSS実銃について

DWJ2003年6月号

 今回の製作にあたり、ドイツの銃器雑誌「DWJ」2003年6月号のレポートを主な資料として使用した。まず、この内容の要約をお読みいただきたい。


   薬莢内にピストンを閉じ込めることによる消音システム

ヴォルムスのトランスアームズ社が、ロシアの非常に興味深いピストルPSSのサンプルを自由に使用できるよう提供してくれた。この消音兵器の作動システムとディテール、そして関連する弾薬について、以下の記事を読んで欲しい。

多くの国のスパイ機関は消音ピストルを使用している。その存在は多くの人に知られている。敵のスパイを逮捕したとき、事件がおきたときに、しばしば消音ピストルが発見されるからだ。例えば、世界的に知られた例として、1960年5月1日、アメリカのU−2スパイ機がソ連のスベルドロブスクで撃墜されたとき、パイロットのフランシス・パワーズはサイレンサーつきのハイスタンダードピストル1挺を持っていた。

フィクションの世界ではOO7が非常に有名である。現実世界には、従来2つのサイレンサーシステムが知られている。バレルの先に接続するものと、バレルと一体になっているものだ。前者は銃口から噴出するガスに段階的にブレーキをかけて妨害し、この結果発射音を小さくするものだ。後者はバレル前部に斜めの穴を開け、ガスの拡散スペースに流す。サイレンサーとバレルジャケットは一体となっている。ガス拡散スペースには金網がぎっしり詰まっていて、ガスの流れを妨害する。一体型には命中精度に悪影響を及ぼさないというメリットがある。

いかなるサイレンサーも超音速で飛ぶ弾丸から発する衝撃波による音を消すことはできない。そこでできるだけサイレンサー使用時には弾速が最大でも300m/s以内になるように配慮される。

発射ガスがマズルから出ないようにすれば、高い消音効果が得られる。この目的のため、多くのパテントが取得されている。1901年、J・ハットフレスは、オーストリアの第5478号パテントを取得した。「銃の中央に栓をすることによって、発射音と反動を避ける装置」というものだ。「栓」はピストンとして働き、バレル内径より小さい弾丸を運ぶ。バレルはじょうごのような形状になっていて、先端部で弾丸の径よりわずかに大きい程度まで狭められている。発射時、「栓」は狭められた部分で停止し、弾丸のみが飛んでいく。バレルの後方には小さな穴が開けられ、ガスはここからゆっくりと漏れる。発射のたびにマズルから前装銃の装填に使うような長い棒を入れ、「栓」を後方に押し戻してやらなくてはならない。こういう銃はいつでも作ることができるが、実際には知られていない。また、反動を免れるというのは願望にすぎない。

サンクトペテルスブルグのバシリウス・ガブリロフによって取得されたドイツ特許第21314号、「人は馬鹿げた思いつきと言うかもしれない銃」もこうしたもののひとつだ。

最後は、1910年6月24日に取得されたドイツ特許第223580、パリ在住のエティエネ・キオサによる「銃に栓をすることで銃の反動、銃声、硝煙を避ける装置」だ。アイデアとしては最初のものに似ている。しかし「栓」の周囲にらせん状の溝を設け、ガスがかすかに漏れるようにした点が異なる。

ガスの封じ込めによる消音に関するパテントを列挙したが、これらは消音そのものに関しては効果が充分かもしれないが、実用的とはいえない。このアイデアが実用的なものになったのは、1983年、E.S.コルニコワとW.A.ペトロフ(クリモウスクのTsNITOCHMASH所属)によってである。このパテントでは、ピストンを特殊な薬莢内で受け止める。これにより、オートでの作動が可能になった。

独自構造の弾薬、7.62x41.5と呼ばれるものは、7.62x40mmとか、7.62mmx42とも呼ばれることがある。だが、41.5mmというのは最も正確な数値であるし、またメーカー自身も使っている名称である。この弾薬のイラストは欄外に示してある。ピストンは軽合金製で、ピストンの中央にはノーズがあり、弾丸の後部に入っている。弾丸は円筒形だ。弾丸はスチール製で、前部のベルトは真鍮製だ。薬莢もスチール製で、電気的に銅メッキされている。プライマー部にも圧を逃がさないための特殊なデザインがある。データは表にまとめてある。

弾丸は薬莢内に全て収まっており、薬莢内の約25.5mmの有効ストロークでのみ加速される。この弾薬を使う銃はPSSと名付けられた。トリガーメカはマカロフから引き継がれた同じものである。PSS前部の断面図を見よ。1.はリコイルスプリングのケースであり、スライドの一部である。2.はチャンバーで、バレルから分離して後方へ7mm動くことができる。4.はスプリング軸で、このスプリングは3.の「かんぬき」にバレル基部方向(前方)へのテンションを与えている。「かんぬき」のマガジン側には小さなフィーディングランプがあり、送弾をスムーズにしている。バレルのライフリングは非常にピッチが強く、約100mmで1回転というものだ。フロント、リアサイトには放射性物質がインサートされ、暗いところでは発光してフロント、リアサイトの発光部が重なりあって8の字状になる。

スライドをオープンすると、リコイルスプリングケースのガイド部が当たり、チャンバーを後方に7mm引く。このとき「かんぬき」のスプリングが圧縮されるので、スライド後退の衝撃を緩和するバッファーの役目も果たす。スライドが新しい弾薬を送り込みつつ前進すると、チャンバーも元の位置に戻る。

分解方法を説明する。マズル部を1.5cmほど前方に引き、リングに沿って180度回転させる。同時にスライドを引き、フレーム側とのかみ合いをはずすと後方に抜ける。

PSSにはスライドストップがある。セーフティはマカロフと同じだ。ハンマーをデコックし、ハンマーとファイアリングピンを固定する。

弾丸の重さは約10gあり、初速は約200m/sだ。リコイルはわずかだ。発射時、薬莢は高圧と120℃と見積もられる高温に耐える。薬莢はこれに耐える強度を持ち、発射後0.05mmふくらむのみだ。

このピストルは予備マガジン1個、ホルスター、その他小物類とともに供給される。メーカーは約1000発の発射に耐えると主張しており、これは使用目的からして充分である。

最も重要な点は、どれだけの音がするかだろう。ロシアの情報によれば、それはエアピストルと同じという。計測の結果約1.5mの距離における発射音は113dBAであり、これはファインベルグバウ65の発射音とずばり同じであった。当然だが、この特殊弾薬のおかげでマズルフラッシュはない。OO7の武器係、ミスターQがこれを作ったら、どんなに喜び、そして誇りにすることだろう。しかもこれは全て現実なのだ!

さらに述べるべきこととして、スパイ用の射撃ナイフがある。NRS−2だ。グリップ内にSP−4弾薬と発射装置が設けられている。ナイフは全長290mm、刃は160mm、鞘および弾薬を含んだ重量は0.57kg、有効射程は25m、単発である。

 PSSとSP−4弾薬は、共に非常に興味深い発達を遂げたものだ。これがコレクターの手にのみ留まることを切望する。

PSSデータ
全長:165mm
全高:140mm
グリップ部全幅:25mm
セーフティ部全幅:28.5mm
銃身長:35mm
ライフリングピッチ:100mmで半回転
未装填時重量:660g
7発装填時重量:825g
マガジンキャパシティー:6発
サイトは25mに調節


初速(6発の平均):202.4m/s


ここには、20世紀初期の、PSSの消音システムのルーツにあたる、「バレル内に発射ガスを閉じ込める」アイデアに基づく特許が3つ示されている。これらはきわめて興味深く、また一般にはほとんど知られていないと思われるので、別ページを設けて少し詳しく紹介した。

 この記事では話の内容が何故かルーツにあたるパテントからPSSに飛んでいるが、本来はこの間に説明すべき内容がある。まず、ベトナム戦争で使用されたとされる、薬莢内に発射ガスを閉じ込める形式のリボルバーについてだ。たぶん「薬莢内に発射ガスを閉じ込める」アイデアの最初のものはこれだと思われる。「ザ・殺人術」によれば、これは「QSPR」(クワイエット スペシャル パーポス リボルバー)というもので、ベースはS&W.44マグナムリボルバーだった。威力は小さかったが、少なくともベトナム兵1人を地下トンネル内で倒した。全体としては大きな戦果はなく開発も終わった、ということだ。考えてみれば、「サンダーファイブ」(.410番散弾が使用できるシリンダーが非常に長いリボルバー)のバレルのみ交換し、特殊カートリッジを開発、使用するだけでPSS以上の威力が期待できる。アメリカではこのアイデアは放棄されたようだが、ひょっとして秘密裡に使用されているかもしれないと考えておいた方が夢がある。
 次に、PSS以前に作られたソ連製秘密兵器S4Mについてだ。これについてはご存知のようにGUN誌2003年11月号でレポートされたし、「特殊小火器研究所」の秋氏がモデルアップし、解説されているのでここでは詳しくは触れない。注意しておきたいのは、S4Mは弾頭やライフリングのピッチをAK47、AKMと同じとし、発射した人物、銃、位置などを誤認させようといういわば姑息な、純然たる非公然兵器(暗殺専用)であり、輸出もされていないのに対し、PSSは公然的な特殊兵器で、輸出もされているという点だ。また、S4Mは至近距離専用だが、PSSは比較的遠距離でも威力を発揮することを目指している。PSSのサイトは銃のサイズの割に非常に大きくなっていて、放射性物質を埋め込んで暗夜でも見やすく配慮されている。おそらく敵陣に夜間奇襲をかける際に、発射音やフラッシュで気づかれずに歩哨を倒すことなどが主な目的であると考えられる。サイトは25mに調節されており、メーカーは50mが有効射程と主張している。「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」では、25mで射撃し、この程度が限界と思われるとしている。元々が中型オートのデザインだし、モデルアップしたものを構えてみた感じからも、50mはちょっと苦しいのではないか、また用途からしても25mで充分という気がする。
 「DWJ」はPSSの設計者について触れていないが、「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」は「Viktor Levchenko」という人物だとしている。ただ、ただ、この人物に関してこれ以上詳しい情報はない。

構造
 PSSの構造はこのようになっている。

PSS断面図1

PSS断面図2

 「DWJ」で「1.」とされているのは緑色で表現されたスライドのうち前方への延長部だ。「2.」のチャンバーは空色部分、「3.」の「かんぬき」はピンク部分、「4.」のスプリング軸はその真下のパーツだ。リコイルスプリングの配置は特殊だが、PSSはバレルが極端に短いので通常の配置方法はとれない。ワルサーP38などのように横に配置する方法もあるが、厚みが大きくなって携帯しにくくなるので真上に配置した、ということだろうか。スライドが後退しきる寸前、緑部分先端下部がチャンバー上部をひっかけ、約7mm後方に引く。チャンバー下部は「かんぬき」をひっかけており、「かんぬき」には真下のスプリングのテンションがかかっているので、バッファーの役目も果たすというわけだ。「かんぬき」後部には小さなフィーディングランプが付属しているが、これは「かんぬき」と連動して前後に動かず、固定されている。チャンバーが後退するのは、初期のマルゼン製カート式コッキングエアガンにあったように、チャンバーがいわばカートを「迎えに行く」ことで送弾不良を減らそうという狙いだろうか。バレルごと後退した方が単純だが、命中精度上はバレル固定の方が有利だろう。
 トリガーガード後部は切断されたように描かれているが、実際PSSのグリップフレーム内部には金属のフレームは入っておらず、プラスチックのグリップのみでマガジンをホールドしている。これは前後に非常に長い弾薬を使用する関係で少しでもグリップを前後に小さくするため、と思ったのだが、よく考えれば前後に薄い金属フレームを露出させ、左右ツーピースのグリップを装着した方がいくぶん薄くできるはずだ。
 これらの部分はきわめて特徴的だが、それ以外の部分は基本的にマカロフと同じメカだという。スライドストップがあると書かれているが、少なくともマカロフと同じ位置、形状では存在しないし、それらしいパーツは見当たらない。いまどきマガジンフォーロワでストップさせるとも思えないのだが、真相は不明だ。

分解方法

分解1 分解2 分解3

 PSSの分解方法はきわめて特殊だ。まず、スライド前端部のように見える部分(作動時には動かない)を、バレルから抜けるまで前に引っ張り出す。この部分左右に削り込みがあるのは、重量軽減とともに、この作業をやりやすくする意味があるのだろう。この部分にはロックなどはなく、リコイルスプリングで後方に引っ張られているのをスプリングのテンションに逆らって引き出すだけだ。次に、引っ張り出した部分を、リコイルスプリング軸を軸として真上に180度回転させる。そして後退させるとスライドごと後方に抜ける。断面図を見てもわかるように、このままではスライド先端下部がチャンバーにひっかかって抜けないはずだ。ここで何らかの操作をするようなのだが、残念ながら筆者のドイツ語力不足で具体的にはわからない。
 分解ラッチのようなものを必要とせず、分解しても紛失しやすい小パーツが出ない点は評価できると思うが、ここまで分解してもバレルもリコイルスプリングも取り出せず、それらの分解にはかなり面倒な作業が求められると想像されるので、いいシステムといえるかは疑問だ。
 ちなみに実銃はリコイルスプリングが強いから問題ないだろうが、もしガスブローバックでリアルに再現すると銃を素早く抜いて前方にポイントしただけで先端部が慣性で飛び出してからスプリングで引っ込む変なものになるだろう。まあこんなものをモデルアップする量産メーカーはあるはずないので問題ないだろうが。

PSSの発射音
 「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」は、「サプレッスドではなくサイレント」「スライドの作動音しか聞こえない」としている。「DWJ」は「ファインベルグバウ65と同じ」「113dBA」としている。
 「dBA」というのはいわゆる「デシベル」「dB」のことかと思ったが、どうもおかしい。「別冊GUN」によれば、イングラムMAC10(9mmパラベラム)の騒音実測値はサプレッサー未装着で92dB、装着時で78.5dB、MP5SDで66.5dBとなっている。9mmパラベラム仕様のMAC10をサイレンサーをなしで撃つよりはるかにうるさいというのではとうてい消音銃とは呼べない。検索してみると、「dB」と「dBA」は違うもので、「dBA」は音圧レベルに補正をかけて人間の耳に感じられる値に近づけた単位、「A特性音圧レベル」というものだそうだ。残念ながら実銃の音を「dBA」で表わした資料が見つからなかったのでこの数値だけではなんとも言いがたい。また、こうした数値が低ければ即人間に静かに感じられるというものでもないようだ。しかし、「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」「DWJ」双方の筆者が実際に音を聞いて、「きわめて静か」という感想で一致しているので、その点はおそらく間違いないだろうと思う。
 発射音は非常に小さく、マズルフラッシュはなく、中型オートをやや上回る程度のコンパクトさで、最大7連射できる、というこの銃は、確かに使い方によっては非常に有効な特殊兵器になるだろう。

参考資料
「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」(Charlie Cutshaw著)
「CARTRIDGES OF THE WORLD」(9TH EDITION) 
「ザ・殺人術」(ジョン・ミネリー著 富士碧訳 第三書館) 






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