実銃について


プレッシン、レミントンダブルデリンジャーと「ザ・プロテクター」


資料として使用した「WAFFEN REVUE」と「FLAYDERMAN’S GUIDE」

 「ザ・プロテクター」は1882年にフランスでパテントが申請され、アメリカでは1890年代に生産された。最大のものは口径が8mmと、きわめてコンパクトな割には大口径であり、ダブルアクションで素早く10連射することができた。.32口径で10連射できるハンドガンは現在でもこれよりはるかに大きい中型オートクラスしかないし、当時はもちろん存在しなかった。こう考えると「ザ・プロテクター」はきわめて優秀なディフェンスガンであるように思える。「銃に見えない銃」という性格上一般市販は無理にしても、特殊兵器として現在使用されていてもおかしくないのではないかとも思える。当時は削り出しや鋳造で作られていたはずだが、この銃のパーツの大部分はプレス向きにできている。現在の技術をもってすれば非常に安価に、さらに優秀なものができそうなものだ。例えばプレッシンの設計者はなぜ隣国生まれ、この種のものとしては比較的有名なこの銃の構造をコピーせず、口径はほぼ同じ、装弾数は1/5、コンパクトさはほぼ同じ、重量は1.5倍以上、安全性は明らかに劣る、というものを約100年後に作ったのか。九四式のように独自構造にこだわって劣ったものになってしまったのか。そうではないだろう。原則として良いものは真似され、生き残っていくし、生き残れなかったものにはそれなりの理由というものがあるはずだ。ここでは「ザ・プロテクター」が何故生き残れなかったのかを中心に考えていきたい。

ターレットリボルバーの誕生
 最初の「銃」は、片方がふさがった金属パイプに持ち手となる棒をつけ、点火口を開けただけの、ごく単純なものだった。ここから現在に至る銃器の発達が始まる。初期の銃には雨に弱い、ロックタイムが長い、命中精度、信頼性、安全性が低いといったさまざまな欠点があったが、最も大きな欠点のひとつは1発撃った後に2発目を撃つのに時間がかかるという点だった。これを解決する方法は2つ考えられる。ひとつは再装填を短時間でできるようにすること。そしてもうひとつは連発にすることだ。前者は今回のテーマとあまり関係がないので置くとして、後者の問題について考えてみよう。
 最も単純な連発銃は、複数のバレル、チャンバー、発火機構を持ち、これを横に並べたものだ。これは要するに単発銃を束ねたようなものであり、もっと言えば単発銃を複数持つのともあまり変わらない。この形式の代表は水平2連散弾銃であり、現在でも狩猟用などに使われている。この形式の欠点は重量、横幅が大きくなることで、原則として2連発が限度となる。
 そこでバレル、発火機構は1つで、チャンバーを複数持つ連発銃が考えられた。チャンバーを横に並べたものもあるが、これでは横幅が大きくなりすぎるので、円周上に配置したリボルバーが発明された。17世紀、フリントロック時代に手動回転式のリボルバーがすでに存在していたらしい。当時としても当然連発できる銃は単発銃より圧倒的に有利だったはずだが、普及しなかった。これは、アイデアはあっても、当時はまだ充分な威力、信頼性、安全性を兼ね備えたリボルバーを作ることが技術的に難しかったためと考えられる。リボルバーが急速な発達を始めるのは1830年代の後半からだ。この頃突然アイデアが出たためではなく、やっとこの頃、実用に耐えるリボルバーを作れる技術水準に達したということだろう。その傍証として、ほとんど同時期(1830年代後半から末頃)に、似たような(複数のチャンバーと単一の発火機構を持つ)連発銃が2種類登場していることが挙げられる。

 そのひとつはぺッパーボックスリボルバーであり、もうひとつはターレットリボルバーだ。ペッパーボックスは通常のリボルバーと機構的にはさほど変わらず、チャンバーごとに別々のバレルを持つものにすぎない。ペッパーボックスは一時的とは言えかなりの成功を収めた形式だが、一方のターレットリボルバーはごく例外的な珍銃に留まっている。ターレットリボルバーは単一のバレル、単一の発火機構を持ち、複数のチャンバーを持つパーツが回転して順にバレル軸線と一致するという点は通常のリボルバーと同じだ。違うのは、チャンバーの配置が放射状だということだ。この形式にはターレットを水平に配置したものと垂直に配置したものがある。成功はしなかったとはいえ、リボルバーのアイデアはすでにあったにもかかわらず複数の人がこのアイデアを具体化した以上、リボルバーに勝ると思われる点もある。まず第1に、ターレット形式はリボルバーより装弾数を多くしやすい。リボルバーは6発のものが主流だが、ターレットは7〜10発というものが多い。そして、ターレットを垂直に配置するとリボルバーより銃が薄くなって携帯しやすい。垂直、水平配置とも、特に水平配置だとバレル軸線が低くしやすく、マズルジャンプが小さくなる。
 「FLAYDERMAN’S GUIDE」という洋書がある。1920年代くらいまでのアメリカ製の銃の概略、生産時期、生産数、価格などを示したコレクターズガイドだ。ここに掲載されているターレット形式の銃を挙げてみよう。

ターレットリボルバーのバリエーション

COCHRAN TURRET REVOLVER
 1830年代の遅い時期、生産数は150以下と推定。.36口径、7連発。ターレットは水平配置(この銃のバレル軸線はマテバ並みに低い)。ハンマーはフレームの下にあり、シングルアクション。ターレットの回転はハンマーと連動せず手動。同時期にライフルタイプもあった。状態のいいものは11000ドル。ネット上に画像があった。http://www.juliaauctions.com/firearms/3-01/web/119-120.jpg

P.W.PORTER TURRET REVOLVER

 1850年代初めごろにごく少数生産。.41口径、9連発。ターレットは垂直配置。レバーアクションでターレットが回転し、ハンマーもコックされる。ハンマーは垂直の軸を持ち、フレームの右サイドにある。サイトは左にオフセットされる。同時期にライフルもあり、こちらは約1250とかなり多数が生産され、公用のテストも受けた。アメリカにはP.W.PORTERとその銃はサミュエル・コルトの陰謀で抹殺されたという俗説があるらしい。状態のいいものは12500ドル。

WRIGHT PILL LOCK TURRET PISTOL
 この銃は床井雅美氏の「現代軍用ピストル図鑑」P9に側面写真が掲載されているので持っている人は見てほしい。1854年にごく少数(10以下と推定)生産。.36口径、8連発。ターレットは垂直配置。この銃のシステムは異常なほどユニークだ。グリップ前面にレバーがあり、これを握りこむとハンマーコックと同時にターレットが回転する(H&K P7のスクイーズコックの元祖か)。トリガーに見えるものは単なるフィンガーレストにすぎない(よく見るとトリガーのようなものがフレームと一体であるのが確認できる)。真のトリガーはグリップ後方のバーだ。たぶん死ぬほど使いにくいと思う。状態のいいものは9500ドル。

 この本は生産数10以下かというものまで掲載されているように、きわめてマイナーなものまで網羅されている。それなのにターレットリボルバー(ハンドガン)として掲載されているのは「ザ・プロテクター」を除けばこの3種のみだ。ペッパーボックスは独立した章までさいて数十種類掲載されており、ターレットリボルバーがいかにレアかがわかるだろう。価格も1万ドル前後とすさまじいものになっている。これは要するにターレットリボルバーはダメだったということだ。何故ダメだったのだろうか。

 第1の問題は、ターレットの直径が大きくなりすぎるということだ。大きなターレットを水平に配置するとハンドガンとしては異常に全幅が大きくなって携帯しにくくなる。かといって垂直に配置するとターレットの半分が視界の邪魔になる。威力を増すためにチャンバーを長くすればするほどこの問題は大きくなっていく。
 もうひとつは製造のしにくさだ。全てのチャンバーと軸穴が同じ方向を向いているリボルバーのシリンダーにくらべ、全て違う方向を向いているターレットははるかに製造困難なはずだ。
 そして、構造上チャンバー間にどうしても扇型のかなり大きなデッドスペースが生じてしまう。ちなみにカートリッジを放射状に配置するマシンガン用ドラムマガジンなら、テーパーつきのカートリッジを弾頭を中心に向けて並べればデッドスペースは小さくてすむ。だがもちろんターレットリボルバーで弾頭を中心に向けることは不可能だ。

 これらは筆者が考えて到達した結論だが、この本には筆者が気づかなかったターレットリボルバーの持つ致命的な欠点が書いてあった。暇な方はちょっと考えて見てほしい。ヒントは、これに気づかなかった筆者は実銃の怖さをほとんど実感したことがない、ということだ。実銃を扱いなれた人なら気づく可能性が比較的高いと思う。

 ターレットリボルバーは、構造上射撃するチャンバーの反対側のチャンバーが射手を向いていることになる。真後ろは銃でカバーされている可能性が高いが、その両隣はほぼ射手を向いている。射撃の衝撃でそのチャンバーの雷管が発火したら至近距離からペッパーボックスで撃たれたのに近い結果になる。現在のメタリックカートリッジならこんなことはまずないが、当時のパーカッション式の場合はわずかながら可能性があったようだ。この意味では垂直配置の方が危ない。胸の高さで水平に射撃した瞬間頭と腹を撃たれて倒れる、なんてことが絶対ないとはいいきれないのだ。

 脱線気味だが、リボルバーの変種ともいうべきターレットリボルバーのさらに変種といえるライフルがこの本に2種類掲載されている。どちらも上記の欠点をほぼクリアしたと考えられるものだ。

BENNETT&HAVILAND MANY CHAMBERED REVOLVING RIFLE
 1838年にパテント取得、生産数は10以下と推定。.40口径12連発。この銃は12個の直方体のチャンバーをキャタピラのように結合し、順繰りにバレルと一致させる。要するにターレットの各チャンバーの結合をフレキシブルにしたものと考えればいい。回転は手動。配置は水平で、銃にセットしたときは前後に長い状態になる。全幅は大きくなるが、固定したターレットよりはかなり小さくできる。同じ規格で多数のチャンバーを製造し、ピンで結合すればいいので比較的合理的に製造できるはずだ。真後ろは銃でカバーされているし、他は真横を向いているので射手は一応安全なはずだ(隣の人は知らないが)。

STANTON PERCUSSION TURRET RIFLE
 1850年代の遅い時期、生産数は50以下。.50口径、6連発。ドーナッツ型のベースに円筒形のチャンバー6つがぶらさげてある。多数の洗濯バサミがぶらさがったリング状の物干しみたいな状態を想像してほしい。レバーアクションでベースが回転するとともに発射位置に向かうチャンバーが前を向き、さらに前進してガスシールされ、同時にハンマーコックもされる。上記の銃は全幅が大きくなるのであまり強力な、つまり長いチャンバーは使いにくいが、このタイプならかなり長いチャンバーにもできる。射撃する以外のチャンバーは下を向いているのでほぼ安全だろう。時代を考えると驚くほど巧妙なつくりだが、ではこれよりはるかに簡単に作れるリボルビングライフルより優れている点は何なのか、と問われると困ってしまう。

 両者とも射撃時に大きな衝撃を受けるチャンバーがフレキシブルな結合になっているため、耐久性に疑問があり、またゴミなどの混入に弱そうに思える。いずれもアイデアは面白いが一般化はしなかった。

「ザ・プロテクター」の登場
 変種も含めターレットリボルバーは1850年代ごろを最後にアメリカではほぼ消滅した。これはターレットリボルバーがダメであることが明白になったからだけではなく、メタリックカートリッジの時代に入ったからでもある。前項で述べたターレットリボルバーは全てパーカッション式だ。パーカッション式なら、弾頭と火薬はターレットの外側から入れ、雷管はターレットの上または下の中心近くに並べればいい。これなら中心の穴の大きさは軸の太さだけでよく、ターレットの直径が大きくなりやすいという欠点は最小に抑えられる。しかしもしメタリックカートリッジ式ターレットリボルバーを作るとなったらどうだろう。カートリッジを外部から入れることは事実上不可能で、内側から入れるしかない。当然中心の穴の大きさは最低でもカートリッジの全長と同じだけ必要だ。つまりターレットの直径はカートリッジの長さの3倍が最小限度ということになる。コルトSAAと同じ.45ロングコルトを使うターレットリボルバーを作るとすれば、ターレットの直径は最低でも12cm以上必要になるわけだ。この最低限度の大きさのターレットにはSAAの倍くらいのカートリッジが装填できるだろうが、それにしてもこんなドラムマガジンのような巨大なターレットを搭載したハンドガンはとても実用になりそうにない。また、装填、排莢はターレットを完全に銃から外さないとできそうにないし、その作業はリボルバーよりはるかにやりにくいはずだ。

 こんなわけで、「ザ・プロテクター」を除き、アメリカではメタリックカートリッジ式ターレットリボルバーというものは製造されなかったようだ。ただ、フランスではメタリックカートリッジの原型に当たるようなカートリッジを使用するターレットリボルバーが製造されていた。
 http://www.horstheld.com/0-makers-E.htm   http://www.horstheld.com/0-makers-L.htm
 「ザ・プロテクター」は異様な外観と構造を持っており、メタリックカートリッジ式ターレットリボルバーとしては銃器発達史上唯一の存在と思われる。しかし、決して何の脈絡もなく唐突に出現したのではなく、おそらくこうした銃から発想が出発したものなのだろう。
 「ザ・プロテクター」を発明したのはJacques Edmond Turbiauxというフランス人で、1882年にパテントを取得している。パームピストルとしては「ザ・プロテクター」と並んで比較的有名なガウロイス(「WAFFEN REVUE」の表紙にイラストが描かれているもの)もフランスの銃であり、19世紀末から20世紀初め頃、フランスではこの種の小型護身用ピストルが流行したのだろうか。
 「ザ・プロテクター」の最大口径である8mmバージョンのデータを示す。

口径:8mm 重量:246g 全長:104mm 銃身長:36mm ライフリング:6条 装弾数:10発
 
 この他、口径5.6mm、7mm、.32口径があり、装弾数は6〜10発があった。Turbiauxという人物がどんな人で、ヨーロッパでどれだけ普及したかなどは資料がなく不明だ。

 アメリカではシカゴファイアアームズが1890年代に「ザ・プロテクター」を生産した。使用弾薬は.32エキストラショートリムファイア、7連発。前部の指掛けのうち1つを延長する折りたたみ式フィンガーレストがつく、後部のレバーにクッションが付属する、グリップ(というのかドーナッツ状のパネルでハードラバーがスタンダード)にチェッカリングが入るなど、オリジナルのフランス製とはデザインがやや異なる。生産数は約12800。上記の本(1994年版)では状態のいいものが950ドルとされているが、最近の検索の結果では1800ドルというのがあり、価格が近年高騰しているのかもしれない。 http://www.horstheld.com/0-makers-C.htm
 一方ミネアポリスファイアアームズでは1891〜92年に生産された。こちらは.32センターファイア7連発だった。生産数は約3000。
 いずれもニッケルフィニッシュがスタンダードでブルーはプレミア品となっている。グリップはノーマルのハードラバーのほか、パール、アイボリーがあった。ミネアポリスファイアアームズ製のほうがオリジナルに近い形状だが、アメリカ製の「ザ・プロテクター」ではセーフティは省略されている。

 双方合わせて15000以上生産されており、これは最も有名なデリンジャーであるレミントンダブルデリンジャーの1/10にあたる。例外的な珍銃というほどではなく、一定の人気があったことがうかがえる。ターレットリボルバーでは間違いなく最も成功した製品だろう。

「ザ・プロテクター」の欠点とは
 しかしおかしいではないか。ターレットリボルバーの欠点のひとつはターレットの直径が大きくなりすぎることだった。そしてメタリックカートリッジ式になってこの欠点がますます増大した結果全く姿を消した。それなのに手の平に握りこむという性格上直径を大きくできないパームピストルの形式としてこれを選ぶというのは、スナイパーの形式としてオープンボルトファイアを選ぶくらい不合理だ。これが成功するというのはいったいどういうことか。

 本体の肉厚をなるべく薄くするなどの方法には限度がある。この形式の銃の直径を抜本的に小さくする方法は魔法でも使わない限り1つしかない。それはカートリッジの全長を小さくすることだ。「ザ・プロテクター」のターレットには、通常使用される弾薬の中で最も弱く、小さい.22ショートすら長すぎて装填できないのだ。「ザ・プロテクター」の弾薬は長さわずか15mm、薬莢の長さ9mm、弾頭の長さは8.5mmとなっている。つまり火薬は直径8mm、高さ6mmくらいの円柱状のスペースにしか入らない。しかも当時は同じ容積でも現在の無煙火薬よりパワーが低い黒色火薬の時代だ。初速がどれだけ出ていたかは不明だが、少なくともレミントンダブルデリンジャーに使われた.41リムファイアよりかなり遅かったと想像できる。厚い革コートの上からだとあたってもさほどのダメージがないことも考えられ、「銃」として異常に威力が弱いことは間違いないと思われる。

 「ザ・プロテクター」の問題点はまだある。この銃は基本的に銃を前後で保持する。そしてこの「後」はトリガーの役目を果たすレバーだ。このレバーはダブルアクションでストロークの長い回転運動をする。銃身の軸線と違う方向に強いテンションをかけていき、レットオフのとき突然抵抗がなくなってバチンとハンマーが落ちる。このとき銃身は非常に大きくぶれざるを得ない。タナカ製ペガサスシステムのチーフスペシャルあたりが適当だと思うが、比較的小さなダブルアクションのエアソフトガンを用意し、人差し指でトリガー、親指でグリップの後部をつまむように保持し、発射してみてほしい。これでターゲットにあてろというのは無理だろう。スプリングが最大限弱くしてある今回の製品でも銃身のぶれは非常に大きく、実銃で命中させられるのは2〜3mが限度ではないかという印象を受ける。ギャンブラーに愛用されたというのももっともで、小さい丸テーブルをはさんでポーカーをしていて、突然相手が「イカサマだ!」と叫んで銃に手をやる、そんなときくらいしか役に立ちそうもない。それでも、顔面を狙うというようなことは難しいだろう。ちなみにTurbiauxはパテント申請時にやや異なるシステムの銃の図面も提出している。この1つはバレル周囲にトリガーを配置し、バレルを軸にしてストレートに後退させるものだった(これ以外はほとんど「ザ・プロテクター」と同じ)。この方が明らかに命中させやすいと思われるが、何故かこの形式の銃は生産されなかったようだ。

 威力が極端に弱い、命中精度が極端に低い、という欠点があるため、「ザ・プロテクター」は一時的にある程度の成功を収めただけで歴史に埋もれていったわけだ。

「ザ・プロテクター」対プレッシン
 ただ、プレッシンに比べ、「ザ・プロテクター」が明らかに劣っているとはいいきれないような気がする。威力はプレッシンがはるかに上だろうが、装弾数5倍というのは大きい。しかも緊急時にトリガーコントロールができるとは考えにくく、事実上プレッシンは2発バースト1ショットしかできそうもないから発射回数では10倍とも考えられる。プレッシンはシングルアクションのストライカーをコックした状態でシアと一体のトリガーをクロスボルト式セーフティでロックして携帯する。ストライカー自体はロックされておらず、クロスボルトは何かの拍子に動いてしまいやすく不安だ。これに対し「ザ・プロテクター」はダブルアクションであり、暴発の危険はほとんど考えられない。セーフティを省略したアメリカ製ですら一応安全だったのだろうし、ましてセーフティをかければ現在の基準でも安全性は充分だろう。ダブルアクションのハンマーにはリバウンドもハンマーブロックもないが、ハンマーは完全に内蔵されて外部から叩かれる可能性はない。どうしても不安なら1発抜けばいい。それでも9連発だ。一方命中精度は明らかにプレッシンの方が上で、たぶんプレッシンなら5mくらいまで命中が期待できるだろう。重量は「ザ・プロテクター」が全体に肉の薄いつくりなのに対しプレッシンは鉄の塊といった感じで、重量は1.5倍以上ある。
 「ザ・プロテクター」とプレッシン、貴方ならどちらを選ぶだろうか(まあ、実用的にはどちらも選ばない、というのが正解っぽいが)。

映画に登場した「ザ・プロテクター」
 「ザ・プロテクター」が登場する映画は筆者の知る限り2本ある。
 1つはスティーブン・セガール主演の「死の標的」だ。この作品は同僚が撃たれたことをきっかけに、きりのない麻薬組織との戦いに絶望した捜査官が退職して故郷に帰る。しかしそこでもジャマイカ系の麻薬組織が勢力を伸ばしており、戦いに巻きこまれていく、というストーリーだ。かなり荒っぽいつくりだが、まあ、スティーブン・セガール主演作品としては上出来の部類だと思う。ただ、「ハロウィン4」および5で堂々のヒロインを演じた子役ダニエル・ハリス(注:女)が「コマンドー」のアリッサ・ミラノのような役どころと思いきや全然活躍しないのが不満…ってそんな話じゃない。「ザ・プロテクター」は冒頭近く、故郷に帰った主人公が壁に掛けたアンティークガンのコレクションから手にとる。レバーを握るがスカスカで手応えがない。カバーを90度ひねって外す。ターレットを取り出す。ハンマーとシアのかみあいをドライバーでこじるようにして直す(こんなんで直るのか?)。レバーを握るとハンマーが正常に動く(ちなみに「WAFFEN REVUE」のイラストではファイアリングピンがハンマーと別になっているが、ここでは一体であるのがはっきり確認できる)。元通り組み、レバーを握ると正常に作動する、という一連のシーンで、操作法から構造まできわめてクリアに見ることができる貴重な映像だ。このときの「シャキンシャキン」という作動フィーリングは今回の製品とよく似ているように見える。このときスティーブン・セガールは非常に嬉しそうな表情を見せる。
 こんな珍しい銃をこれだけ時間をかけて詳細に見せたのだから当然これはクライマックスでキーとなる伏線と思いきや、その後一切登場しない。結局「銃がいつのまにかこわれている」で時間の経過を示し、「それを直してにっこりする」ことで麻薬組織との戦いに疲れてすさんだ自分から昔の自分に戻った、ということを表現したのだろうが、拍子抜けという感は否めない。
 もう1つはリー・ヴァン・クリーフ主演の「西部決闘史」だ。サバタシリーズの最終作で、「アパッチ」と呼ばれるナックルダスターリボルバー(付属のナイフが飛び出し式になっているが、これは本当にそうなのか、映画の演出上そうしたのか気になる)、シャープス4バレルデリンジャー(4本のバレルは固定され、ハンマーを起こすごとにノーズが回転する)など珍しいアンティークガンが登場する。第1作の「西部悪人伝」が「必殺仕置人」とすればこちらは「必殺仕事人V」以後というか、「西部悪人伝」がルパンV世第1シリーズとすればこちらは第2シリーズ以後というか、ちょっと明るすぎてムードに欠け、個人的には第1作に及ばない印象だが、それなりにおもしろい。こちらは「ザ・プロテクター」がアップでクリアに見えるシーンは少ないが、使われ方は見事だ。まずストーリーとちゃんと関連付けて「ザ・プロテクター」をガンショップで買うシーンがある。ここでこんな形をしていてもこれは銃であり、例外的というほど珍しいものではない、ということが示される。これがないと例えアメリカ人でも「え、何あれ?」と思う人が多いだろう。ちなみにここで銃をクルクル回して見せるので想像以上に厚みが大きいことが確認できる。その後サバタが10mは離れている数人の敵を一瞬のうちになぎたおすシーンが描かれる。もうお分かりだろうがこんなことはとうてい不可能だ。さらに言えばこの映画では正確に西暦何年の話か示されないが、南北戦争当時中尉だったサバタの部下があんなに若いのだから1890年代に作られた「ザ・プロテクター」が登場するのは本当はおかしい。だがまあこの映画にそんなつっこみは無粋というものだろう。登場シーンはまだあるのだが、これはネタばれになるので書けない(ここまででもネタばれという方もいるだろうが、ごめんなさい)。
 どちらも見る価値は確実にあると思うので機会があったらぜひ確認してみてほしい。

2002年11月3日追加
 「CARTRIDGES OF THE WORLD」というアメリカの本にプロテクターのカートリッジのデータがあった。
 ミネアポリスファイアーアームズ社製品に使用されたセンターファイアの.32Protector弾薬は、弾頭重量約2.3g、初速168m/s、エネルギーは約32.4ジュールだったという。エネルギー量では通常使用されるカートリッジとして最低パワークラスの.25ACPのちょうど半分となっている。コメントには「きわめてパワーに欠ける。だがまあ石を投げるよりはずっといい。」といった意味のことが書いてある。
 ちなみに1995年1月号のアームズマガジンで、鉛玉を発射できるハンドクロスボー「スティンガーマグナム」(実は筆者の私物)をテストしたことがある。このときのデータによると弾の重量6.3g、初速51.8m/s、エネルギーは8.5ジュールとなっている。プロテクターの威力はこれとさほどの差はないのではないかと思っていたが、さすがに装薬銃だけあって4倍くらいのエネルギーがあったようだ。ちなみに筆者は初速が.41リムファイアよりかなり遅いだろうと推測したが、.41リムファイアの初速はわずか130m/sであり、これは誤っていた。
 なお、シカゴファイアーアームズ製品に使用された,32エキストラショートリムファイアについても記述があった。こちらは弾頭重量3.5g、初速198m/s、エネルギーは約68.6ジュールとかなり強力で、22ショートや.25ACP、41リムファイアといったところと同程度のエネルギーがあったようだ。エネルギー量とストッピングパワーは必ずしも比例せず、たぶん大口径で重い弾を使用する.41リムファイアがもっとも優れていて、.32エキストラショートリムファイアは.22ショートや.25ACPより上だったかもしれない。実用目的のものとして最低クラスの威力であることは間違いないが、至近距離でならセルフディフェンスガンとしてある程度は役立っただろうと思われる。また、手のひらに包み込むように保持する銃のデザインからして、コルト25やノースアメリカンデリンジャーなど極端に小さいグリップで保持する通常デザインの銃よりリコイルが抑えやすかったと考えられる。また、これならば無煙火薬をめいっぱい詰めれば現在でもある程度は通用するかもしれないとも思える。銃の強度が持てばの話だし、命中精度の低さはどうにもならないが。
 なお、.32エキストラショートリムファイアという弾薬はプロテクター専用かと思っていたのだが、違っていた。この弾薬は、1871年から1888年までに約1万挺が生産されたRemington−Rider Magazine Pistolという銃のためのものだった。この銃はごくおおざっぱな外観はレミントンダブルデリンジャーに似ており、バレルの下にチューブマガジンがあるというデリンジャーサイズのハンドリピーターピストルだ。すでに存在した.32ショートリムファイアを使用すると3連発くらいになって2連デリンジャーと大差がなくなり、この形式をとることの意味が薄くなる。そこで極端に短いこの弾薬を使うことによってデリンジャーサイズでの5連発を実現したのだ。この銃の生産は終了していたが、弾薬は流通していたのでシカゴファイアーアームズがこれに目をつけて使用したというわけだ。
 

 

 

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