SP−4特殊弾薬


SP−4(7.62mmx41.5)データ
(DWJによる)

弾薬全長:41.85mm
弾薬重量:23.25g
薬莢全長:41.3mm
薬莢直径:先端部9.5mm
     ボディー部11.9mm
     リム部11.9mm
薬莢の肉厚:1mm
ピストンの重量:0.65g
発射薬の重量:0.21g(ニトロパウダー)
弾頭全長:28.5mm
弾頭直径:7.56mm
弾頭に巻かれた真鍮ベルトの直径:7.8mm
真鍮ベルトの全長:4.0mm
弾頭重量:9.95g
硬度:40HRc
初速:202.4m/s
初活力:約204ジュール

寸法および性能
 SP−4はオートピストルの弾薬としてはきわめてサイズが大きい。
 まず全長だ。オートピストルに使用する弾薬のうち、全長がいちばん大きい可能性があると思われるものを挙げてみよう。

.50AE(デザートイーグルなど):40.9mm
.475ウィルディマグナム(ウィルディ):40.1mm
.45ウィンチェスターマグナム(グリズリーなど):39.4mm 
.44レミントンマグナム(デザートイーグル):40.9mm 
.357マグナム(デザートイーグル、クーナン):38.4mm 
.30カービン(オートマグV):41.9mm 
5.7x28mmFN(ファイブセブンピストル):43.4mm
 

 この数値は「カートリッジ オブ ザ ワールド」からの引用だが、弾頭形状などによって弾薬の全長は多少変動する。元々ロングアーム用である5.7x28mmはSP−4よりやや長いが、さほどの差はないし、同じく元々ロングアーム用の.30カービンとはほとんど同じだ。おそらくSP−4はハンドガン用として作られた量産弾薬としては最も長いものであると思われる(ちなみに.475ウィルディはワイルドキャットカートリッジ扱い)。SP−4のシステムでは弾薬が長いほどパワーが引き出せるが、あまり長いとグリップの握りにくさが限度を超えてしまう。設計者はこの程度が限界だと考えたのだと思う。

 次に最大径だ。.50AEは13.9mmもあり、.44マグナムのリム部も13.1mmあるので、SP−4の11.1mmは最大級というわけにはいかないが、かなり太いもののひとつであるのは間違いない。
 
 弾薬全体の重量は23.25gとなっている。他の弾薬と比較するため手持ちの資料を探したが、どれにも載っていなかった。軍用ライフル弾の場合同一重量で何発持てるかという比較が行われることもあるが、たいていの場合弾薬全体の重量というのはあまり重要な意味を持たないからだろう。やむを得ず手持ちの実物ダミーの重量を計測してみた。数が少ないものが多いので数値はあまり正確ではない。

.308ウィンチェスター(旧NATO弾) 19g
.375H&Hマグナム 33g
.300ウェザビーマグナムおよび.300ウィンチェスターマグナム 26g
.45ロングコルト 23g
.38スペシャル 16g
.380ACP 9g
.32ACP 7g
.25ACP 5g
 
 実際にはこれに発射薬とプライマーの重さが加わる。.308ウィンチェスターの場合発射薬の重さは普通3g弱程度のようだ。おそらく弾薬全体の重量ではSP−4よりやや軽い程度だろう。SP−4はハンドガン用カートリッジとして最も重い部類に入り、現代の軍用ハンドガン用としてはおそらく最も重いが、大量に持つ性質のものではないので問題は小さいだろう。ただ、フル装填した状態と残り1発の状態では140gくらい重量が違い、バランスが大きく変わってくるから違和感を感じることはあるかもしれない。
 弾薬全体の重量から弾頭と発射薬の重量を引けばほぼ空薬莢の重量になるはずだ。その計算では空薬莢は約13gとなり、ハンドガン用としてはきわめて重く、たぶん普通の10倍程度になるだろう。重さを比較したいが、残念ながら他のカートリッジの空薬莢のみの重さという資料は見つからなかった。
 
 弾頭重量は9mmパラベラムより重く、おおよそ.40S&Wと同じくらいだ。もちろん普及しているハンドガン用弾薬の弾頭重量にはさまざまなものがあり、IMI製9mmパラベラムサブソニック弾は10.2gもあるし、.40S&Wも少なくとも8.8g〜11.7gくらいまでのものが存在する。ちなみにロシア製、口径7.62mm、円筒形の弾頭という共通点を持つナガン用は約7g、マカロフ用9mmx18は約5.9gだ。SP−4は比較的重い弾頭だということができる。
 
 発射薬の量は0.21gとなっている。他の弾薬は

9mmパラベラム 約0.39g
.25ACP 0.1g
.32ACP 0.23g
.380ACP 0.19g
.45ACP 0.32g
 

といったところで、.32ACPより少ないことになる。これは有効ストロークが薬莢内のみなのでこれ以上チャージしても意味がないということだろう。初速を速くするために燃焼速度の速い発射薬を使いたいところだが、度を越すと薬莢や銃に対する負担が大きくなり、最悪の場合破裂して射手を殺傷しかねないから難しい。
 200m/s強という初速は現代ハンドガン用弾薬としてはきわめて遅い。現代ハンドガン用弾薬として低速なものの代表といえば.45ACPだが、これでも260m/sくらいのものが普通のようだ。200m/sというのは率直に言ってブラックパウダー時代並みである。ちなみにモーゼルC78、ライヒスリボルバーなどに使われた9mmパラベラムの先代ドイツ軍用カートリッジである10.6mm弾(もちろんブラックパウダー)の初速が約198m/sとされ、ほぼ同じくらいだし、ブラックパウダー時代に普及していたコルトSAA用.45ロングコルトの初速もおおよそこの程度だったようだ。「DWJ」の内容にもあるが、超音速弾はそれ自体が衝撃波による大きな音を出し、これはいかなるサイレンサーによっても消すことはできない。.45ACPのように元々音速以下の弾は問題ないが、9mmパラベラムなど超音速の弾は音亜速に落とさないと高い消音効果が期待できない。この場合300m/sをやや下回る程度に調節されることが多いらしい。SP−4の弾はさらにその2/3程度だから全く問題はない。PSSの有効射程はメーカーによれば50mだという。この距離では先端が平らで大きな空気抵抗を受けることも考えれば、発射から命中まで1/4秒をかなり上回る時間がかかると考えられる。1/4秒と言えば意外に長く、特に動標的に対する命中率は低くならざるを得ないだろう。
 エネルギーは速度の自乗に比例するので重量が比較的重くても低速の弾はエネルギーが小さくなる傾向にある。SP−4のエネルギーは9mmパラベラムの半分以下、.32ACPなみでしかない。しかしおそらく先端がフラットで弾頭重量が重いため、.32ACPよりはストッピングパワーが強いと思われる。低速でもスチール製のためボディーアーマーやヘルメットに対する貫通力も高いというが、これに関しては客観的なテストデータはない。ただ、「知識の断片」コーナーの「ホローポイント弾」の項目に挙げたテストデータなどから、ごくおおざっぱには「比較的低速でも重い弾はソフトターゲットに対する貫通力が優れており、比較的軽くても高速の弾はハードターゲットに対する貫通力が優れている」傾向があるように見える。「硬質で遅い弾」というのは珍しいので類推は困難だが、少なくともSP−4でスチール板を並べたターゲットを撃った場合、貫通枚数はさほど多くはならないのではないかと思う。

構造と機能

SP−4

 SP−4はこんな構造になっている。発射薬(赤部分)に点火すると、軽合金製のピストン(黄色部分)が急速に前進し、スチール製の弾頭(緑部分)を押し出す。ピストンは薬莢先端の絞られた部分で強制的に停止させられ、発射ガスは閉じ込められる。ここから先弾頭は慣性で前進するのみだ。ピストンが薬莢内で前進する有効ストロークはたった25.5mmしかない。通常の銃でいえば1インチ強のバレルしかないのと同じことだ。
 ピストン後部が空洞になっていて、ここにも発射薬が入るのは、少しでも弾薬の全長は短く、有効ストロークは長くとるためと、圧力で後部が開いて薬莢内に密着し、気密を高める両方の狙いだろう。ピストンが軽合金製なのは弾頭が軽い方が初速が速くなるのと同じ理屈で、この方が前進スピードが上がり、弾頭の初速も速くなるためと、前部に激突するときのストレスをいくらかでも弱めるためだと思う。樹脂の方が軽く、柔軟で気密性も上がるはずだが、それでは強度的に持たないということだろうか。図でわかるように、弾頭の先端は薬莢先端の絞られた部分でしっかり固定されるが、後部は薬莢内部とは密着しておらず、がたつく余地がある。後部を薬莢内部ぴったりに太くしたらもちろん抜け出ることができなくなる。そこでピストン先端に突起を設け、弾頭後部の穴に入れてセンターを確保するようにしたわけだ。
 弾頭は全長28.5mmとハンドガン用としては異常に長い。このシステムでは有効ストロークの25.5mmよりやや長い弾頭が絶対に必要だ。ただ、径が比較的細いのと、ほぼ全体が鉄製(比重の重い鉛のコアを持たない)のため重量は異常に重いというほどでもない。この銃は薬莢内のみが有効ストロークであり、通常の銃と違ってバレルには弾頭を加速する機能はない。それどころか摩擦抵抗で逆に初速を落としてしまう。長い鉄製の弾頭をライフリングにかませたのでは初速が大きく低下するかあるいは停弾してしまうので、弾頭の先端に真鍮製(「DWJ」では真鍮としているが「THE NEW WORLD OF RUSSIAN SMALL ARMS&AMMO」では銅としている)のベルト(茶色部分)を巻き、これをライフリングにかませることで抵抗を軽減している。真鍮のベルト部分は鉄製の本体よりやや径が大きくなっているわけだが、その差は0.24mmという微妙なものだ。あまり差を極端にすると弾頭の後部がバレル内でがたつく余地が生まれ、命中精度が低下するからだろう。「知識の断片」コーナーの「ホローポイント弾」の項目で説明したドイツ語でいうところの「フュフルングスフラッヒェ」が極端に短い弾になってしまうということだ。理屈上はリングをもっと短くして前後端部に巻いた方が命中精度上有利なはずだが、実際のSP−4のデザインではやや太いリングが薬莢先端の絞られた部分から抜けると後は弾頭は薬莢とのフリクションなしに進めるのに対し、前後に巻くともう一度抵抗にあってパワーロスしてしまう。コストも上がるし、それらに見合うほどの効果はないということかもしれない。初速のロスを少なくするため、PSSのバレルはたった35mmしかなく、そのかわりライフリングのピッチは100mmで1回転というきわめて強いものになっている。
 薬莢(青部分)も鉄製で、非常に強い内圧と衝撃に耐える必要があるため、肉厚は1mmと薬莢としては異常に厚くなっている。プライマーにも高い圧力に耐える構造があるというが、具体的には不明だ。あるいは、通常外部(後ろ)から入れるプライマーを内部(前)から入れて圧力で抜け出ないようにしているのかもしれない。
 
 これ以外にSP−4のバリエーションは知られていないが、おそらく存在しないのだろう。性格上先端の尖った弾は使えないし(オートをあきらめて単発、マルチバレル専用にするなら別だが)、コンテナに収めた散弾、サボでくるんだフレシットといったものも使えるかどうか、たとえ使えたとしても有効かどうか疑問だ。また、SP−4の弾頭は高温の発射ガスに直接触れないので、特殊な新方式を取らない限りトレーサーは作れないだろう。作れたとしても消音トレーサーに使い道があるかどうかこれまた疑問だ。ピストンに穴を開け、消音効果はないがパワーが強くなる弾薬は場合によっては使い道があるかもしれない。
 DWJにあるように、SP−4弾薬を使用する銃としてはPSSの他にNRS偽装ナイフピストルがある。床井雅美氏の「現代軍用ピストル図鑑」に掲載されているので参照してほしい。SP−4を使うサブマシンガンの存在は知られていないが、今後登場する可能性はあると思う。ただ、SP−4をダブルカアラムにしてグリップに収めたらとても握れないし、バレルはSP−4より長くても無意味なのでデザインはかなりの制約を受けるだろう。

SP−4については「特殊小火器研究所」の秋氏も紹介されていて、実物の画像もあるのでそちらも参考にしていただきたい。


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