2.11.3 コック部品・ハンマー構造
2.11.3.1 前に位置するコック部品
スペース上の理由からたいていのピストルにおいては図2.11.10で表現されたハンマー(1)とコック部品(2)の配置が選択されている。図では(3)がフレーム、(4)が閉鎖機構、(5)がファイアリングピンを示している。ここでは以後に示す図と同様に矢印SSはコック部品スプリングの力の方向を、矢印HSはハンマースプリングの力の方向を、矢印dはトリガーから伝達された力を表現している。この構造の欠点はハンマーレストとハンマーの回転ポイントの短い距離にある。我々はこの構造を外装ハンマーを持つ多くのピストルに見いだす。
図2.11.10 前に位置するコック部品
2.11.3.2 フック形状のコック部品
SIGザウエル モデルP220およびP225の場合コック部品の軸はハンマー軸の前上方に位置し、コック部品はフック形状に作られている。この配置の場合コック部品のレストはフック内側にある。この構造はコンベンショナルな配置よりも大きな構造の高さを要求する。
我々は図2.11.11で表現された配置を、1932年における最初のワルサースポーツピストルまでの初期ワルサーピストル群(モデル2以後)に見いだす。ハンマーは半分の長さの位置に段差を持ち、ここをフック形状のコック部品がグリップし、ハンマーをコックされた位置に保持する。コックレストからハンマー軸中心までの距離はノーマルな配置の場合よりも大きい。これにより他の条件が同じならばトリガー抵抗はより均一に、そしてより小さくなる。
図2.11.11 フック形状のコック部品
図2.11.10に示された構造はガバメントなどに使われている最も普通のシステムであり、補足説明の必要はないでしょう。この構造ではハンマー軸とシアによって支えられる位置との距離が短いので、いわばハンマーは梃子の原理を利用してシアを下に押しており、ハンマーとシアの間に大きな摩擦抵抗が生まれます。また微妙な誤差が大きく影響するからでしょうか、毎回のトリガープルが不均一になりやすいともされています。
第2の構造は「SIGザウエル モデルP220およびP225の場合」とされていますが、これはこの本が書かれた当時まだP220シリーズのバリエーションが少なかったからで、このシリーズは全てこうなっています。
http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/SigSauer_P6_P225_pic2.gif
http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/SIG_P226_P4.jpg
断面図で見ると非常に良く分かりますが、「この構造はコンベンショナルな配置よりも大きな構造の高さを要求する」とあるようにこの特殊な構造がこのシリーズにおけるグリップに比しての高いバレル位置の原因になっており、例えば非常にハイグリップできるグロック等に比べてマズルジャンプが大きくなり、連射スピードが落ちると批判する人もいます。一方どういうメリットがあるのかはここにも書かれていませんし、私も思いつきません。
ワルサー初期モデルに見られる構造はハンマー軸とシアによって支えられる位置との距離が長いので、ハンマーとシアの間の摩擦抵抗が小さくなり、毎回のトリガープルもより均一になるとされています。
ハンマーは青で表現していますが、薄い青の部分は幅が狭くなっていて、濃い青の部分は図で手前に張り出しているわけです。シアは両者の段差分しか厚みが取れず、特にベストポケットピストルのようなサイズではパーツの強度が不足して破損しやすくなるおそれがあると考えられます。またハンマーの上半分も充分な厚さが取れず、打撃力不足による不発が生じる可能性が高まるとも考えられます。加工コストもノーマルなシステムより高くなりやすいでしょう。明らかなメリットがありながらワルサー自身が後に放棄し、他にも真似されていないわけですからメリットよりデメリットの方が大きいんでしょう。