2.11.4.3 閉鎖機構の上側に位置するハンマーのためのコック部品、コックレバー、ハンマーシステム

 それを使って速射による多数の射撃を正確に行うことが望まれるスポーツピストルにおいてはリコイルショックが妨げになる。リコイルショックは銃をターゲット方向から外すように叩くからである。邪魔なリコイルショックが大きくなればなるほど射手は発射後、改めての照準合わせにより長い時間を必要とする。UITおよびドイツシューター連盟の規則によればバレルは最大限で、バレル軸線の想定された延長がちょうどまだ射手の手の上を走るまで低く位置してもよい。すなわちバレル軸線は上のグリップ境界線の上に位置しなくてはならない。銃器工場Ischewskのオリンピック用ラピッドファイアピストルIsch-34およびスタンダードピストルIsch-35(両方とも1982年にマーケットに登場した)ではハンマーとコックレバーがスライドの上側に配置されている。これによりマガジン後方および閉鎖機構の最後部位置の下の空間が射手の手のために獲得され、そしてバレルは他の量産銃器の場合よりも低く位置している。

 図2.11.16はこのシステムの配置と機能を示している。a)ではモジュール(この中にトリガーシステムとサイトが統合されている)とならんでファイアリングピンの付属した閉鎖機構(4)、フレーム(7)の一部、バレルブリッジ(8)、グリップの後上方限界も示されている。バレル軸線CLがわずかのみ(約3mm)グリップ限界線の上を走っているのが分かる。ハンマー(1)はコック部品(3)にあてがわれたコックレバー(2)によってコックされた位置に保持されている。これらの部品に属するスプリングの作用方向は小さな矢印で説明されている。矢印Dはトリガーバーがレットオフの際に動かされる方向を示している。このトリガーバーはコック部品に作用し、時計方向に回転する。b)はデコックされたメカニズムを示している。ハンマーは閉鎖機構の端部にあてがわれ、ファイアリングピンを前方へ打撃し終えている。c)ではコッキングの経過が示されている。閉鎖機構はハンマーを左へ回転させている。その際コックレバーはハンマーによって、a)で表現された状態に達するまで回転させられつつある。閉鎖機構の最も右に位置するポジション(RP)は黄色で示されている。このモジュールは1本のネジと1本のピンによってフレームに保持されている。(5)および(6)は対応する穴を示している。



     

     

図2.11.16 上に位置するハンマーのためのコック設備(Isch-34、Isch-35) a)はコックされた状態、b)はハンマーダウン、c)はコックされる途中


 原則として全ての銃にはリコイルショックがあります。そしてこれによりほとんどのハンドガンではマズルジャンプが発生します。マズルジャンプが発生するのはバレル軸線が銃を保持する手より高い位置にあるからであり、ウェブリー・フォスベリーオートマチックリボルバーのようにバレル軸線が非常に高い位置にあればマズルジャンプはそれに応じて大きくなり、グロックのように比較的低い位置にあれば比較的小さくなります。マテバリボルバーのバレルが通常のリボルバーとは逆に下にあるのもバレル軸線を低くしてマズルジャンプを小さくするためです。アサルトライフルの場合、現在ではいわゆる直銃床が主流となっており、実際には必ずしもそうではないですが理想的な直銃床ならばマズルジャンプは理論上起きません。しかしハンドガンの場合は真っ直ぐ後方にリコイルショックが伝わるようにするデザインは困難です。例えば「ザ・プロテクター」パームピストルやキングコブラボックスピストルなどは例外的にマズルジャンプが全くないデザインですが、言うまでもなく正確に狙った連射が可能なデザインではありません。

 実は1950年代、ソ連がフレームを前方に大きく伸ばし、その先に通常のオートピストルの上下を逆転させたような、つまりスライドを下に設置した機関部を持つ異様なラピッドファイアピストルを登場させたことがあります。当然全長が通常デザインより著しく長くなりますが、オートピストルでありながらマズルジャンプがほとんどない銃にすることには成功しました。しかしその後バレルはグリップ上限より上でなくてはならない、という規定が付け加えられた結果この銃は使用不能になりました。今回紹介されたのはギリギリこの規則に合致する特殊構造のピストルであり、まあ実用目的に応用できなくもないかな、という感じです。

 









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