2.10 閉鎖機構スプリング

 閉鎖機構スプリングは2つの任務を持っている。1つはリコイルショックの一部をスライドの運動の間にフレームに伝達するべきこと、もう1つは発射後に閉鎖機構を再びその出発位置に戻さねばならないことである(そういうわけで復帰スプリングあるいは閉鎖スプリングという別の名称もある)。今日ほとんど圧力のかけられたコイルスプリングだけがこの目的に使われている。こうしたスプリングは非常に安価で耐久性が高い。そして実際ひとたび折れてもすぐには全ての力を失わないはずである。

 V字型の板バネはW.Whitingによって設計されたウェブリー&スコットピストル群において閉鎖スプリングとして使用された。このうち口径7.65mmブローニングのメトロポリタンポリスモデルは1906年から1940年まで製造された。この銃の場合このスプリングは右のグリップパネルの下に位置し、レバーを介して閉鎖機構に作用している。これは明らかによい解決法ではなかった。というのはウェブリー&スコットの手本にならってハーリントン&リチャードソンによってアメリカ国内でライセンス生産されたピストルは本質的な変更を示していたのである。すなわちこの変更は板バネに関するもので、これは閉鎖機構内に位置するコイルスプリングによって置き換えられていた。



(頑住吉注:この銃に関しては図等がなく、ネット上にも見つからなかったので「HANDGUNS OF THE WORLD」(Edward C.Ezell著)の写真をお見せします。レバー先端はスライドと連動して大きなストロークで動きますが板バネの動くストロークはほんのわずかで、とてつもなく強力な板バネが必要となるはずです。)

 今日閉鎖スプリングのためのいろいろな配置が使われている。バレルを包むスライドを備えた銃では、スプリングは可能な場合バレルに巻かれる。この場合スプリングのための特別なガイドが省かれ、良好なスペース利用が達成される。我々はほとんど全てのモダンなポケットピストル、そして遅延された閉鎖機構を持つH&Kのコンバットピストル(P9S)においてこの配置に出会う。ブローニング閉鎖突起閉鎖機構を持つ銃の場合閉鎖スプリングは一般にバレルの下に配置される。こうした銃においてバレルが後退時に傾斜運動を行う場合であってもバレル周囲への閉鎖スプリングの配置は可能であろう。スライドがバレルを包まない場合、復帰スプリングは閉鎖機構によってバレル後方において受け入れられる。例えばハイスタンダード、ワルサー、(頑住吉注:スターム)ルガーのスポーツピストル群の場合のようにである。多くの銃では閉鎖スプリングの受け入れのためスライドのバレル下が前方に向け延長されている。例えばワルサーオリンピアモデル(1936)、S&Wモデル41ピストル、ロシア製M.C.-1ピストルのようにである(頑住吉注: http://imperialarms.home.att.net/collection.html ここで挙げられた銃の多くはここで見られます)。強力な弾薬用の銃で閉鎖スプリングが後方に配置されている場合、一般に2本のスプリングが使われる。その直径は小さく抑えられ、閉鎖機構内部の左右に位置する。こうした方法では銃の全幅が是認できる限度内に抑えられる(ワルサーP38、オートマグ 頑住吉注: http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/walther__p38.gif  http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/Auto_Mag_180_Auto.png )。

 FNピストルモデル1899(モデル1900とも呼ばれる)の場合、その設計者であるブローニングは同時にファイアリングピンスプリングとしても役立つ閉鎖スプリングをバレルの上に配置した(図2.10.1を見よ)。スライド(3)は2つの上下に重なり合った前後方向の穴を持つ。下の穴はフレーム(1)に固くねじ込まれたバレル(2)を包む。上の穴の中にはスプリングガイドにかぶせられた閉鎖スプリングが走っている。このスプリングガイドは前部にぎざぎざをつけたナット(4)を持ち、後部は1本の軸によってスライド内に関節結合されたレバーと結合されている。このレバーはスプリングの力をレバーとかみ合うファイアリングピン(6)に伝達する。こうした閉鎖スプリングの位置は同じ寸法の場合、マガジンキャパシティを上で記述したようなピストル群に比べ1発程度減らしている。こうした欠点にもかかわらず、その大きな販売成功ゆえにブローニングは多くの人に模倣された。すなわちドライゼおよびベヤードのピストル、オーストリアのモデル1908ステアー、Langenhanやフロンマーの銃などが上部に位置した閉鎖スプリングを使用した。



図2.10.1 バレル上に位置する閉鎖機構スプリング(ブローニング モデル1899)

 1906年までパラベラムピストルは閉鎖機構板バネを装備していた。これはグリップフレーム内マガジン後方に位置した。だがこれはその後コイルスプリングと交換された。このコイルスプリングはスプリングを貫通した引き棒および角度レバーを介して膝関節閉鎖機構と結合されている。図2.10.2で明らかなようにである。



図2.10.2 グリップ内マガジン後方に位置するP08の場合の閉鎖スプリング。1=フレーム、2=バレル、3=フォークケース、4=ボルト(閉鎖機構ブロック)、5=前の関節アーム、6=後ろの関節アーム、7=連結フック、8=引き棒の角度レバー、9=閉鎖スプリングの引き棒(閉鎖機構スプリング) (頑住吉注:元々の図はバレル前部を除く銃全体が描かれていますが、ここではリコイルスプリングに関係する部分だけにしました。なお「フォークケース」というのは何度か出てきましたが後方が二股に分かれたバレルエクステンションのことです)

 Le Francaisピストルの場合も閉鎖スプリングは同様にグリップフレーム内にある。この場合マガジンの前に位置しているだけである。図2.10.3はこの構造を示している。閉鎖機構(1)は普通の方法でフレーム上でスライド可能に配置されている。閉鎖スプリングはスプリングガイド上で誘導される。閉鎖機構の運動により、フレーム両サイドに位置するスプリングレバーがスライド内にあるカム(2)によって右に回される。この際スプリングガイド(4)は持ち上げられ、閉鎖スプリングは圧縮される。



図2.10.3 Le Francaisピストルにおける閉鎖機構スプリング配置の原理

 ベレッタベストポケットピストル モデル20は似た構造を使用している。この場合同様にグリップフレーム両側にはスライドとかみ合うレバーが位置する。両レバーは閉鎖機構が後方に動いた時、フレーム内に垂直に位置するスプリングを圧縮する(頑住吉注: http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/Beretta_Modell_20.gif )。

 ベレッタ モデル950という例外はあるが、今日(1982年)全てのピストルにおいてコイルスプリングが閉鎖スプリングとして使われている。モデル950の場合ワイヤースプリングが使用されている(図2.10.4を見よ)。スプリングの巻かれた部分(2)はトリガー後方に1本のピンで固定されている。銃の左右に位置するスプリングのアームはスライド内の両側にフライス加工されたノッチ(1の前)をグリップしており、閉鎖機構をバレル後端に向けて圧している。銃の中央に位置するスプリングアームは切り取り部のある軸にあてがわれている。これによって傾斜バレルは閉鎖された位置に保持される(図2.9.6aおよびbを見よ 頑住吉注: http://www.mek-schuetzen.de/Blueprints/Beretta_950.gif )。



図2.10.4 閉鎖機構スプリングとしてのワイヤースプリング(ベレッタ モデル950)


 今回のタイトルは「Verschlussfedern」で、私は今までこれを「閉鎖スプリング」と訳してきましたが、「そういうわけで復帰スプリング(Vorholfeder)あるいは閉鎖スプリング(Schliessfeder)という別の名称もある」という記述から、「閉鎖機構スプリング」の方が正しいと分かり、今後はそう訳します。

 私は「Faustfeuerwaffen2」のロングリコイルに関する項目において、この人の説明には閉鎖機構後退中におけるリコイルスプリングを介しての運動量の伝達という視点が欠けていると批判しましたが、今回の記述にはそれが含まれており、ちょっと不可解です。

 今回の内容自体は平易で補足説明の必要はないでしょう。「バレルが後退時に傾斜運動を行う場合であってもバレル周囲への閉鎖スプリングの配置は可能であろう」、つまりティルトバレルの銃でもバレルにリコイルスプリングを巻くことが可能だろうという記述はちょっと気になりました。まあ不可能とは言えないと思いますがあまり現実的ではなく、実際にはこういう銃はないと思います。バレルがティルトしないショートリコイルの銃でバレルにリコイルスプリングが巻かれているものですらかなり珍しい存在です。普通に作ればリコイルスプリングによってバレルが常に後方に強く押されてしまうことになるからです。九四式拳銃ではこの問題をバレルにスリーブをかぶせ、これでリコイルスプリングの後端を受けることで解決しています。コストアップに見合うほどかというのは疑問ですが、コンパクトさが要求されたこの銃ではまあ理解できなくもないデザインです。しかしさほどコンパクトさが要求されないと思われるのにこういうデザインになっている変な銃もあります。







 何と発音するのかも分からないロシアの銃器雑誌に掲載されていた、ボディーアーマーに対する高い貫通力を持つ9mmx21弾薬を使用するロシアのピストル、ギュルザです。グロックに近いトリガーセーフティを装備している点、ベレッタ92系に近い独立ロッキングブロックを持つショートリコイルシステムである点、シアをブロックするグリップセーフティを持つ点、トカレフのようにハンマー内にハンマースプリングを収めている点、オートマチックファイアリングピンブロックはないらしい点などの特徴とともに、九四式に近いリコイルスプリングのシステムを持つ点も確認できます。好意的に解釈すればバレルがティルトせず理論上命中精度が高いベレッタ式(と言うか元々はワルサー式ですけど)ショートリコイルの長所を持ちながら前方がスリムでホルスターに収めやすく、ショートバレルのモデルを作る際にも問題が少ないデザイン、ということでしょうかね。









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